衣料消費の低迷の叫ばれる中、地域によっては空洞化現象が見られるようになっています
◆上向く消費者心理
今年だけの例外ではないだろう。3・11による被害の拡大や、福島原発の恐怖もあって、著しく消費マインドは委縮するものと予測された。
また、海外からの労働力の多くが、各国政府の国民保護の名目で一気に日本から引き上げる事態となり、日本の生産力そのものは停滞に追い込まれた。そのために、計画していた春から夏にかけての商品生産は減産を余儀なくされ、明らかに商品量は不足することとなった。
秋物からは、海外労働者も徐々に生産現場に戻り始め、8割程度の生産力を維持するまでに戻っている。お陰で初秋物からは、シーズン物の新作も目立ち、消費者心理も上向きとなってきた。
10月の全国百貨店売上高は、総額で▲0・5%ながら、衣料品は全体で+0・5%と8カ月ぶりにプラスとなった(紳士服・洋品+1・1、婦人服・洋品+0・7、子供服・洋品▲0・4。繊研新聞11月21日付より)。
その流れもあってか、また「3・11」災害で従来のデフレ価格路線を見直したいとする消費者の、ユニクロに代表されるような安価な商品ラインへの反省も生まれ、価格にこだわらない消費姿勢も追い風となり始めてきている感じがする。
◆量を誇る問屋街の役割
現金問屋街としては日本でも群を抜いた規模を誇る馬喰町横山町界隈。確かに一時は「安さ」を売り物とし、また、小売店さんが「その日に販売する商品をその日の中に仕入できる」という利便性が評価されたこともあって、渋谷109等の流行の先端施設のショップからも高い評価を受けてきた。
また、少品種小ロット生産が主流の時代にあって、大量の商品量を保持する問屋街の魅力が強く認識されていることも事実である。
反面、全国的に衣料品の売上減少から、地方の有力小売店さんが廃業や業態転換を余儀なくされる事態を招いてきたことも事実であり、それが問屋街への人出減少につながってきたことも否定できない。もちろん、「安さ」だけであれば、品質のユニクロや、ファッション性が高くかつ低価格のH&M、ZARA等の海外勢が広く全国の商業施設に出店し始めたことも影響してきた。
とはいえ、馬喰町横山町に位置する卸売商社の持つ在庫数量は圧倒的魅力に満ちており、新設のSCなどにとって、これほど「おいしい地域」は無いはずだ。総体として衣料の国内生産減小、輸入減小の中にあって、この地域の優位性はもっと評価されるべきだ。
◆東京近郊地域の空洞化
〜新しいビジネスチャンス到来
銀座や原宿、新宿、池袋等の繁華街においての有力ブランドショップの乱立ぶりは当然としても、その他の地域商店街から洋装店、洋品店、雑貨販売店が消えたことから、今や消費者たるお客さんにとっては買物のしづらい時代となっているから皮肉だ。
明らかに地域の商店街は、空洞化現象が常態化している。といって、上記のような繁華街に出ていけば行ったで、あまりにも商品・ブランドが多く、何をどう買えばいいのか、広い店内をウロウロ歩き回るだけでも疲れ果ててしまう。そんなところに行きたくない、本来楽しいはずの買物が苦痛となってしまう世代が増えていることにも注目しなければなるまい。
近くの商店街で自分をよく知ってくれている商店でモノは買いたい、との消費者の思いが地域を動かし始めている。車社会がもたらした巨大SCだけでは補足し切れない消費者が、新しい買物の流れを創造しつつあるのだ。
地域商店街の空洞化が、新しいビジネスチャンスを確実に呼び戻す時代となりつつある。
日本一の商品集積を誇る馬喰横山には、それ相当の評価を得ているのでしょうか
◆有力バイヤーの評価は厳しい!
さる有力チェーン店を展開する衣料小売店バイヤーに、最近の問屋街商品についての商品イメージ、および状況を聞いてみた。その幾つかを列挙してみると、
- 各社とも同種の商品が多過ぎる。まず、当店の差別化商品の対象とはならない。
- 同質素材、同じ柄ゆきの商品しか置いていない。ポリエステル100%のプリント柄に代表されるような商品がやたら多い。
- 価格を重視しているためだろうが、加工賃の安い丸首P/O等カット・ソーに集中していて魅力がない。
- コーディネートを意識せず、単品販売にしか応えられない品ぞろえになっている。
- はっきり言ってファッション性に乏しく、デザインにも変化がない。「売れ筋」を追うために同じ商品を販売しているのではないか。
- 海外からの買付けが多い理由は分からぬではないが、各社とも同じ仕入ルートでは価格競争に陥ってしまう。最悪のビジネスモデルだ。
- 大手衣料チェーンと同じ商品が専門店にも販売されており、小売店間での競合で問屋街から買い付けた商品が“目玉”の材料にされてしまっていることが多い。
- 今のように各商社のオリジナル商品がないままでは、今後買付けに来る意味が薄れるかなぁ。
- もう少し、価格にこだわらなくていいので、さすが! と思わせる商品が欲しい。
以上だ。
オリジナル商品を開発し、同業他社とは異なる商品政策を展開している商社さんもあり、すでに問屋街を一歩も二歩も出たビジネスを遂行中の企業さんも、数少ないながら存在はする。あくまで総体としての評価だ。
◆外部評価にどう応える
〈やっぱりそうだったか〉というのが、ヒアリングした後の正直な感想だ。これはアパレル商品のみに限ったことではなく、かばん・袋物他をお扱いの商社さんにも共通することだが、同じ商品を同じ仕入ルートから調達していたのでは、年来の有力お得意さんが減少していけば自然と売上も減少するし、何より隣近所の同業者さんとは、価格競争のみのしこりが残ってしまう。
こんなことをいつまで継続していくつもりなのか、正直暗澹たる気持ちに襲われる。海外からの商品買付けについては、海外資本が直接進出してくれば、いずれこのルートは絶たれることになろう。海外資本進出による国内企業衰退の前例はいくつも指摘できる。
アパレルメーカー華やかなりし頃、主力商品は海外のライセンス・ブランドであった、しかし、日本が特殊な流通構造で守られていた間はライセンス商品の威力は圧倒的であったが、規制緩和、いわゆる経済のグローバル化によってライセンス先企業が直接日本に進出できる環境に変わると同時に、ライセンス商品を主力としたアパレルメーカーは衰退を余儀なくされ、市場から退場せざるを得なくなった。
いま話題のTPPのように経済面での国境がなくなる時代においては、決定的に事情が変わってしまうことに留意し、今からその準備をしておかねばなるまい。
ワクワク感溢れる問屋街、それは“ときめき”をお客様に感じていただくこと
ーー当社ならではのオリジナル・ブランドを販売すること
◆千駄ヶ谷地区の卸売業
10月25日に問屋連盟会館で講演していただいた表参道や原宿、千駄ヶ谷等に犇めく若き新興の卸売業者の皆さんの動きについても、同じバイヤーにコメントをもらった。
多少は、日本橋馬喰町横山町地区と比較しての発言となっていることには配慮しなければならないのだが、要は、
- 単価は、ズバリ「安い」。
- 商品のデザインに幅があり、単品大量路線ではなく、同じTシャツでも複数組み合せの楽しみがある。今回はどんな商品があるのか、「わくわく」して出かける。
- 常に、ファッションやトレンドを意識しており、小売店にとっては商品の回転が速く、資金回収につながる可能性が高い。
- 消費者の年齢軸を広く取っての企画であるために、小売店の店舗環境に合わせた商品構成が組みやすい。
- なにより、行く度に商品が変化しており、小売店としてはお客さまに常に新鮮な商品を紹介できる楽しみがある。
- 規模的には、デザイナーの個人的なビジネスも多く、継続しての取引や信用面での不安はあるが、それぞれのデザイナーの個性が表現される強みは、小売としては魅力だ。
- 若い後継者がいる小売店さんは、どうしてもこの方面で勉強したいと思うし、商品構成の柱にするのは危険だが、商品構成上ヌキにはできない存在となっている。
以上だ。
明らかに馬喰町横山町と仕入れ面での使い分けをしており、その意味では共存は可能である。ただ、今後この地区が力を付け、ビジネスとしての基盤を確立していけば、馬喰町横山町を脅かす存在となることは十分に予測できる事実だ。
現在でもすでに単独で大手アパレルメーカーをしのぐ企業も存在しており、さらにこの塊が強大化し、小売店さんにとっての一大仕入拠点に成長する可能性は高いと言わざるを得ない。
◆商品企画力の強化
日本橋界隈が、馬喰町横山町地区を残して商品仕入地区としての力を失っているだけに、従来型の衣料チェーン店等も、名古屋、大阪地区以西への買付けを余儀なくされてきているのが現状だ。
どの小売店さんも、大手を含めて馬喰町横山町地区の商品に期待していることは間違いがない。一日も早く、期待にこたえるべく行動すべきときではないか。「待ちの経営」には、仕入れの街としての魅力づくりに積極的投資を行わなければなるまい。
新しい商品の開発に尽きる。
(経営支援アドバイザー)