「口蹄疫」ウイルス
宮崎県で広がった家畜の伝染病「口蹄疫」については、牛や豚などの家畜にのみ伝染するものであり、人体に影響するものではないらしい。
昨年、大騒ぎとなった新型インフルエンザとは異なるだけに、政府も宮崎県も軽く考えていたのではあるまいが、その恐るべき猛威は、計20万5千頭の牛と豚にワクチンを打ったうえで殺処分をすることになるとメディアは報じている。
殺すのはいいが、もはや埋める場所がないといった事態にも追い込まれているという。
打撃は「宮崎の宝」といわれる「スーパー種牛」6頭にまで及んでいる。この種牛、いずれも松坂牛を始め、日本各地の有力ブランド和牛になる子牛の供給源であるだけに全国畜産界の衝撃は尋常ではない。
一説には、獣医不足が原因とも言われている。獣医の希望者数が減少しているうえに、折角獣医の資格を取っても家畜類を敬遠して、都会の愛玩用の犬、猫専門医になる人が多いという。
農家を含めて関係者は、口蹄疫発症から、防疫体制への迅速なシステム化の仕組みに不備・怠慢があったと言われても返す言葉もあるまい。
口蹄疫ウイルスそのものは、世界中を人間が歩きまわる中で悪意なくウイルスを持ちこんできたともいえよう。
越境汚染は防げない
今までの日本は島国であったがゆえに、海外からの伝染病などの侵入には水際で防止できた確率が高い。
昨年の新型インフルエンザ蔓延の恐怖、ウイルスの国内上陸にあれほどの対策が採られたことを考える時、当然ながら、家畜類に対するウイルスへの油断について、国・県とも大いに反省すべき点があろう。
繊維製品のみならず、家畜の飼料からその他数多くの産業用資材・食品・各種消費財等すべての製品・商品のグローバル化現象は、すべて既定の事実となってしまっている。もはや、日本は島国として、立地的に孤立した存在ではない。
JAL再建との絡みで脚光を浴びているが、国内の数多くの空港には国際線の航空機が常時離発着している。成田・羽田や関空・中部空だけではない。また、物資の輸出入の多くは船便で、日本各地の港に揚陸し、船積みされている。
もはや、グローバル化の波は止めようもなく、それは人間の入出国、原料・製品だけの移動だけではなく、各種ウイルスから、在来種を絶滅させる外来種の動植物に至るまで国内への持ち込みは、日々自然と行われているのだ。
水際での防疫体制は、国家必須の事業でなくてはなるまい。
ユーロ崩壊の危機
予測された通り、早くもあの「リーマン・ショック」を想起させる事態が発生した。
今回のギリシャ財政危機に端を発した金融危機は、世界の市場経済を震撼させ、再び世界の株式市場を冷え込ませた。同時に、ユーロそのものの崩壊まで言及される事態となっている。
国や会社が破綻して借金を返せなくなる「債務不履行」の危険性が、ギリシャという国家レベルでの市場数値で、08年に惹起したリーマン・ブラザーズ米証券を思い起こさせる水準にまで上がったのが引き金となった。
5月21日の東京株式市場は、日経平均株価の終値が2月10日以来の1万円割れとなり、今年の最安値を記録した。元々、東証株式の60%強は
外資が買っており、外資が「売り」に出ると、日本人投資家だけでは十分に買い支えられないという特殊事情もある。
外為市場でも、一時、8年半ぶりに1ユーロ=109円台にもなり、1?=88円の円高が、株安に拍車をかける結果となった。
ギリシャのような国家の国債を多額に抱える欧州の銀行への不信感も広がっている。銀行同士がお金の貸し借りを行う銀行間取引で、とくに米国の銀行が、欧州の銀行に資金を出したがらないという状態が続いているとみられる。
通貨は共通なのに、財政はバラバラのユーロ圏見直しを迫る議論さえ出始めている。
回復途上の世界経済
ユーロ危機に対して、米国の対応は迅速だ。ガイトナー財務長官は、中国から英国、ドイツへと強行スケジュールで「断固たる行動」の必要性をユーロ主要国の要人に迫るという。
荒れる欧州の金融市場を鎮めるためには、大胆、かつ一貫した対策の打ちだしが欠かせないことを強く主張するとみられる。ようやく回復軌道に乗り始めた米国経済が、ユーロ危機で再び景気後退へと突き落とされかねないからだ(朝日新聞・5/22日付記事より)。
オバマ大統領自身もドイツやスペインの首脳らに電話をかけまくり、大胆な対策を採るように迫り続けていると同紙は伝えている。
明らかに、金融資本の動向が国家の枠を超えて、国家や国民の生活に大きな影響を与えていることを認識しなくてはならない時代だ。
金融市場不安定の影響
ユーロに端を発した今回の金融市場の混乱が長引けば、当然、日本経済の景気回復にも大きく影響する。
ユーロが売られて安くなっているのは、明らかにギリシャ、次いでスペイン等ユーロ圏内の経済基盤の弱い国々の財政危機が、容易には解決しない、むしろ深化するのではないか、との根深い不信が渦巻いているからだと言われている。
ユーロ不信の裏返しで円高が進むと、日本の輸出企業の海外での売上げが円換算で目減りしてしまう事態となる。ようやく輸出主導で回復基調にある日本の景気も逆戻りしかねない。
おまけに株安が続くと投資資金が引き揚げられることになり、これは企業の投資や家計の消費を直撃する心配につながることになる。
当面、日本政府に有効な打てる手がないことは、菅財務相の「具体的に何か、新たな対応という趣旨のことは一切ありません」というコメントに尽きる。欧州の動向を見守るしかない状況だ。
公正取引の原則守る
そんな世界情勢の中で、アパレル業界にも喫緊の課題が突きつけられている。中国での日本向け製品の納期遅れの多発だ。とくに、この3、4月の状況は、過去からの慣例ともなっている“春節”の巡り合わせ(今年は、2月14日)とその後の労働者の職場復帰の遅れといった一過性の域を越えたものであった。
中国での生産に期待する日本のアパレルメーカーや小売店のメリットと、中国工場側との生産の仕組みづくりそのものに根本的なきしみが生じている点だ。
元々日本企業の品質基準は、要求する低コストに比べて格段に厳しい。加えて、とくに、レディス製品などの適時・適品供給の苛烈な要求だ。
過去の日本の産地が甘んじて受け入れてきたアパレル側に有利な受注体制を中国工場に要求することは、今後益々困難になろう。日本企業の勝手な理屈は、いつまでも他国の人々には通じないという現実を真剣に受け止めるべき時であろう。
熱帯びる中国市場販売
低迷する日本のアパレルマーケットと異なり、上海万博の影響もあってか、中国市場をターゲットにしての販売競争が、一層熱を帯びてきた。
日本のマーケット自体、“春節”による中国観光客で燃え上がったことは記憶に新しい。それだけに、直接中国本土で、との期待も大きい。中国内販のセミナーに多くの業界人が群がっている模様だ。
過去、中国で成果を挙げたファッションブランドがほとんどない状況だけに、大手、中小を問わずチャンスは十分にある、と同時にリスクの大きさも覚悟すべきだろう。
生産面同様に、日本国内の延長線で、日本国内の常識としてのビジネスモデルを展開しても失敗に終わる確率は高いというべきだ。