|
|
宿屋四郎兵衛
「パワフルワンポイント」
(2005.5.20〜2007.6.1)
|
No. 48 |
ファンドが持ち込む新時代の経営
跳梁跋扈
海外のファンド会社による日本の企業買収が進んでいる。
多くの隠れた資産を有しながら株価の低い企業が狙い打ちされているようだ。日本人の今までの常識では理解できない事態であり、とても許し難い行為に見える。「不条理だ」、狙われた企業には、上場したことを悔やんでいる会社もあろう。
「上場こそ創業の大きな目的」であり、会社発展のメルクマールであった多くの会社にとっては、この事態、まさに青天の霹靂であったろう。
資本の論理がグローバリゼーションの中で、いよいよ牙をむき始めたともいえようか。ファンドの持つ資金たるや、もちろん半端ではない。まさか当期利益2兆円のトヨタ自動車が狙われることはなかろうが、日本を代表する新日本製鉄さえ社長以下トップは、買収防衛策に日夜追われていると言われている。
まさにファンドの跳梁跋扈そのものだ。このままでは、日本の企業の多くが失われてしまう事態になりかねない。
理念・信念を持たない現在の政治家にとっては、選挙こそすべてに優先されるべき政治課題であり、ためにファンドに対する姿勢もいささか時代錯誤的だ。経営者以上に政治家は不勉強でもある。ファンドの動きを封じる施策を検討し始めたという。
何事も“規制”すれば問題が解決するわけでもなかろう。
ファンドは“悪”なのか
ファンドは、悪と見るべきなのか。ファンドに対する正しい認識が今こそ、多くの企業経営者に求められている。
ファンドは利益を生まない株には手を出さない。当然だ。
狙いは、「多くの資産・技術等を持ちながら、それらを活用せず、また不当に安い株価にも甘んじている」企業にある。安く株を買い、そして高く売り抜けるチャンスがそこにあることになる。狙われる企業に共通することは、
(1)自社の価値を理解していない
(2)株価に無頓着、株の本質を理解していない
(3)トップ以下経営陣が勉強していない
(よく言われる事例として、役員は自分の管轄のことには真剣になるものの、他の重要事項である情報システム投資などにはただ判をつくだけ)
(4)会計処理はできるが財務には暗い、現場任せ
(5)ミッションを持たない
(6)偶然トップに就いた
などが、挙げられよう。
このことは、ファンド側に問題があるのではなく、狙われた企業側にこそ問題のあることが理解できる。
ファンドの行動は、正邪で判断されるべきではなく、資本の論理として当然のことであり企業のトップは、ファンドにつけ込まれることのないように、しっかりした経営をしなければならないことを意味している。
会社は誰のものか
今最も激しく経営者につきつけられている課題は、「会社は誰のものか」という認識である。
「会社は顧客のもの」「会社は社員のもの」、あるいは「仕入先はじめ関係者のもの」と長い間信じられてきた。
今なお、それにこだわり続ける経営者は数多い。案外、中小企業わけても同族企業では、「会社は株主のもの」との割り切りが明快だ。
もちろん、どれも正しいのであって誤りはない。要は一概には言えないのだ。ただ言えることは、会社は、「本当は株主のもの」との認識があるものの、何かそう言い切ることに“躊躇い”を感じてきた、そういうことではないだろうか。
“もの言う”ファンドの出現によって、むしろ隠されてきた闇の世界に光があてられて、ごまかしのない正真正銘の資本の正体が明らかになってきたのだ。
会社は、社員や顧客のためにのみあるのではなく、株主(資本を投資した人)のためにこそある、これが資本主義社会の本質だ。「文句あるか」と彼らは言わないが、このことを理解せずしては、ファンドの存在を誤解してしまう。
アパレル企業の先進性
ファンドは、過去ホリエモン事件や村上ファンド事件で多くの誤解も生んできた。
とはいえ、彼らに狙われたフジテレビ・日本放送、阪神百貨店など、残念ながら騒動に巻き込まれるだけの、経営陣に油断・スキがあったことは間違いない。そして、その対応には、社長その人の勉強不足、わけても財務に関する知識不足が大きく関係している。
村上ファンドの村上世彰氏の登場は、唐突の印象が拭えない。
2002年、彼は、当時売上高650億の売上に対して、2倍の1,280億円の内部留保があった東京スタイル株を買占め、筆頭株主(発行済み株式の9.3%)に踊り出た。そして、この内部留保を使っての自社株買いを行うこと、ならびに当時進んでいたファッションビルの建設中止を要求したのである。
東京スタイル側の株の持ち合いという得意先の百貨店・同業アパレルに対する多数派工作や増配などの対抗策が奏効し、村上氏は破れた。が、
株価は高騰し、村上ファンドの目的は達した。売り抜けたのである。
この時期、有力アパレル間で株式の持ち合い打診が進み、具体化した例も多い。村上ファンドに狙われるだけの条件が、アパレル大手にはいくつもあったからである。
アパレル企業は、このファンド問題にも先進性を発揮し、ワールドのように上場そのものを廃した例もすでに出ている。
経営者の意識変革
この事態は、2000年以降に本格化した「会計ビッグバン」と大いに関係する。
時価会計からキャッシュフロー計算書の作成、税効果会計、減損会計、退職給付会計、またストックオプション会計基準の導入など、会計基準の国際化は急拡大してきた。
中小企業に対する会計ルールの見直しも決して遠い未来のことではない。会計をオープンにして、ステークホルダーに開示する必要が求められる時代である。経営者自身のミッションを明示し、ビジョン・経営計画を積極的に公表していかなければならない。
中小企業といえども従来型の「税務会計」からの脱却が求められる時代でもある。
いうならば、「投資家を意識した時代」の到来ともいえる。従来の金融機関だけでの資金調達では済まないとなれば、会計の重要性は増すはずだ。 |
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2007/6/1掲載 |
|
|