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宿屋四郎兵衛
「辛口ワンポイント」
(2003.9.1〜2005.4.20)
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No. 9 |
売上げ減少に歯止め
年末の挨拶に百貨店のトップのところに伺った。再生計画の俎上に上がっている百貨店である。厳しい売上高が続いているものの経費の大幅削減が功を奏し、利益面で目標計画の2年前倒しで推移していると言う。しかし、当然のこととして、何時までも売上高の減少を続けているわけにはいかない。リストラの効果は長くはないし、売上げ減少に歯止めが掛からない限り、企業としての再生はあり得ないのである。もう下がるだけ下がっているのだ。
そのトップ曰く、今のマーケットの状況で、普通に努力しているだけでは、恐らくどの百貨店もGMSも前年比3〜5パーセント売上げは減る、当たり前です。その分、通販やeショップ、TVショッピングなど、いろんな販売ルートが出来ているのですから、そこでの売上げが増えているのです。決して景気のせいではないのです、と言い切る。
どの業態も景気がどうだとか、「店頭基点」だの「流通構造の変貌」だの評論家的に自分を慰める時は過ぎたようだ。具体的に動かない限り明日は無い。
「どのような手を打つのですか」との質問に、間髪を入れず、「スピードです」と答えが返ってきた。
スピードがすべて!
「気が付いたことは、直ぐ行動するのです」「誤ったと知れば、逸早くやり方を変えるのです、スピードが無いと世の中の変化に付いていけないし、消費者も見えなくなってしまいます」という。確かに、どんなことでも直ぐに追随者が出てくる。成功し続けることは許されないのである。この数年、新素材・新商品の開発、新業態店の出店、販売手法の革新など猛烈な勢いで変化し続けていることは事実だ。キャッチアップ出来ない企業は、ドンドン置いていかれている。スピードの無い企業にとって止むを得ない。
3〜5パーセントの減をカバーし、さらに1パーセントの上乗せをどう達成していくのか。既存の業態各社にとっては容易ならざるトップの覚悟とそれに伴う現場指揮の「智恵」と「経験」が必要だ。トップそのものに瞬時の判断力・決定力が無ければ、これは悲劇であろう。
福助の挑戦
年末にもう1人、話題の人物の話を聞く機会を得た。老舗福助の再生を請け負った“カリスマバイヤー”藤巻氏である。
再生計画も確定していないこの時点で、堂々多くの人の前で会社の内情について話をするということは過去の常識にはない。また、既に、NHKはじめ民放各局の取材に応じ、近々には、ドキュメンタリー番組として放映される予定とのこと。
一見、豪快、また野放図な印象とは別の、細かい計算をされているのであろう。福助とは、所謂「足袋」の名門企業、靴下からストッキング、下着類、更に紳士・婦人・子供のアウターまで幅広く百貨店、GMSに展開、また全国の小売店にも多くの顧客を持っていた。問屋、というより靴下の製造メーカー的体質を色濃く持っている企業であった、と認識している。
明るく、楽しく!
一方、マスコミ仕立ての“カリスマバイヤー”、機関銃のような(表現は古いが)言葉の洪水は、恐らく従来の社員達の耳の中を未消化のまま一気に駆け抜けているのではないか、と危惧も覚える。しかし、伊勢丹時代の「伝説」を決して裏切らない風貌、発する“オーラ”の魔力に「アパレルの仕事、靴下のビジネスってこんなに明るく、楽しいものであったか」と辞めずに残っている社員の多くは驚愕の目で見ているに違いない。
灰神楽の埃が治まった後、果たしてどんな会社に生まれ変わっているのかとの興味はさておき、元々、ファッションに携わる問屋、小売店に働くことは恵まれた楽しい、愉快な仕事であった筈である。
消費者の生活向上、レベルアップに向け、必至に工夫し提案していくという、最も「成熟化社会」に相応しい産業であるはずである。この産業にリストラなんて本来あり得ないのである。努力は、必ず報われる。売上げに還元する年にしたいものである。 |
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2004/1/20掲載 |
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