|
|
宿屋四郎兵衛
「辛口ワンポイント」
(2003.9.1〜2005.4.20)
|
No. 22 |
ホントの顧客満足です?
原宿にイトキンさんを訪ねた。綺麗な花が一杯の建物の方である。受付に50歳前後と思しき女性がおられ、驚いたことに「この暑い中、よくお越し頂きました」と、オシボリを差し出された。「有難う」と眼鏡を外して顔を拭っていると、件の受付嬢、団扇を取り出しゆっくりと煽ってくださる。用事があって入った訳でもないのに、である。さすが、アパレル企業として歴史のあるイトキンさんならではのことはある。伝統は、残っているのだ。
そう言えば、以前に、小生が勤務していた堀留の会社に有名な(お得意先に大評判の)受付嬢がおられた。勿論、小生の大先輩に当る方であったが、とに角、一度お越し頂いた方には、2度目、必ず、「○○様、いらっしゃいませ。直ぐ、担当の○○を呼びます」と声を掛けるのである。どの訪問者にも分け隔てがないものだから、直接商売に関係無い人も大感激。また百貨店のバイヤーも人事異動で新しく来られると直ぐにファンになって下さる。
多分、当時のこと、特別社員教育があったとは思えない。ただ、夫々の部署で自分が何をすべきなのか、「お客様」がハッキリと見えていたのだ。社員一人ひとり、目的意識が明確であった、と言えるだろう。最近、今更のように叫ばれる“現場主義”の極致、また、事新しく説かれる「ナレッジ・マネジメント」そのものではないか。
こういった伝統は、不思議にも受け継がれることなく、雲散霧消してしまった。特に、一時の「売上げ至上主義」のもと、「前年対比」「予算対比」 の伸びが問われる中で、各企業は背伸びを続け、本当の事業のあり方、そしてお客さんを見失ってしまったのだ。
“知らない”という怖さ
どの企業も売上げが停滞し、更に、落ち込み始めると、決まって「コスト削減」を目指す。当たり前のことであるが、意外と本当に必要な、残しておくべきモノから切り捨て始める、という不思議さがどの企業にも付きまとうことに驚く。原因は、指揮を取っている経営者の多くが、いつの間にか事業の現場から大きく遠ざかってしまっていたことにある、と言えるだろう。知らず知らずの内に現場にのみ責任を押し付けて、事足れリとしていたのである。
人事の停滞が、事業不振の主因とし、内部から、あるいは外部から新しい人材を登用する。しかし、不振の原因を経営者も満足に理解せず、ただ現場に“やる気がない”だけで、自分の方針に、まさか、誤りがあるなんて想像だにしていない。指名を受けた後任もまた、よく分析しないまま着任してしまう、というケースが殆どである。そこに、一層、事業を苦境に陥れる原因があったのである。
経営者は、本当のことを知らない、まして、新任の人も知らない、今までの自分の成功体験でのみメンバーを引っ張ろうとする。社員の多くの半信半疑、“お手並み拝見”で根本的解決を見ないまま、また、コスト削減のつもりが反ってコスト増を結果する。
自分が正しい、と思っているものだから、本当にお客さんを熟知している組織の末端から「リストラ」を始めてしまう。いままで脇役であった営業を知らない管理部門が、「決算を乗り切るため」「資金繰りのため」「銀行への顔向け」に動き始めるともう業績は回復しない。
当社の“お客さん”は誰なの!
最近、景気が上向きになったのか、人の相談を受けることが多い。曰く、MD、曰く、デザイナー・パタンナーなどの専門職、更に上場企業の衣料品本部長クラスまでの相談がある。特にリストラで、当時の30歳台の多くを失った上場企業は、将来設計を立てる上で厳しいのではないか、と思う。勿論、業界には内外に多くの人材が漂流している。顧問契約だの、契約社員だの、派遣形式だのと外部登用の人材には事欠かない。しかし、この形態だけで、企業の業績回復・発展が可能とはとても思えない。現実はそんなに甘くないのである。いずれ“カベ”にぶつかるはずである。
当社の事業ドメイン(本業)はなんなのか。自分の会社を支えてくれるお客さんは誰なのか、改めて考えて欲しい。そして、全社員がその方向をしっかり理解し、“お客さん”に向かって自主的に行動出来る環境を造ること、が経営者の役割である。
「自分のやってることを社長が理解し、応援してくれている」、この思いが事業を成功に導くのである。安易に外部から人を招き入れたり、思いつきでの社員教育など不要なのである。
流行だからといって(コスト削減をしないと、かっこ悪い)、営業会社の玄関に受付嬢ならぬ、電話をポツンと置くセンスには耐えられない。当社の迎え入れるべきお客さんが、喜んで、また来て頂ける、心弾む玄関にしたいものである。 |
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2004/8/20掲載 |
|
|