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宿屋四郎兵衛
「辛口ワンポイント」
(2003.9.1〜2005.4.20)
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No. 23 |
“消費者に置いて行かれた企業”
百貨店が、“消費者に置いて行かれた企業”だと言ったら失礼だろうか。そうではない、と言い切れる百貨店もあるだろう。然し、ごく一握りの企業は別としても、多くの百貨店は、本当に消費者に置いて行かれてしまった感が拭えない。百貨店全体、業種・業態としての限界と言える、かもしれない。
百貨店と大手アパレル・メーカーとの「コラボ取引」(販売・納入量の事前契約)が進行している。コラボレーション、この場合「協業」と訳すべきか。過去、「優越的地位の乱用」とまで言われた絶対的な百貨店優位の取引形態が、見直され始めたのである。しかも、この取引形態「コラボ」は、長年、返品に苦しんできたアパレル側の要望 というより、むしろ百貨店側の意向に沿って進められている。
“十分な品揃えで売り逃しを減らしたい百貨店”と“大量の返品による在庫リスクを回避したいアパレル”。今まで泣き寝入りで終った関係に変化が出てきたのだ。
一概に、全て百貨店の所為、とは言うまい。多くの“百貨店アパレル”が市場からリタイアしていった。ここ10年以内のことである。しかし、「勝ち組」と言われるアパレルは、“百貨店大事”と言いつつも、次々“直営店”ブランドを展開、戦略を大転換していった。郊外型SC、駅ビル、GMS等へのショップ展開である。百貨店ブランドの展開も、殆どが、いわゆる“消化取引”によるもので、百貨店に頼ることなく、“宿痾”たる積年の「返品問題」をクリアして来た。
アパレル・メーカーは、取引の相手先を、百貨店から消費者に乗り換えた、と言えるだろう。
「販売機会損失」
03年度の百貨店衣料品売上高は、3兆2,122億円、93年度と比較すると4,280億円減少している。
ところで、日本百貨店協会と日本アパレル産業協会の試算による百貨店の「販売機会損失」は、衣料品だけで年間8,800億円に達する。これをコラボ取引で品切れを防ぐと、最大で5,500億円の機会ロス削減が可能だと見ている。簡単に言えば、この5千億が上積み出来れば百貨店の売上高は、十年前の水準を回復するのだ(「日経MJ」紙)。百貨店側がコラボ取引を推進したい狙いはここにある。
「販売機会損失」とは、店頭で売れているのに、納入業者=アパレル側に商品在庫が無く、補充が利かないことによる販売損失のことである。しかし、アパレル側からすれば、売れている商品ばかり引き取り、約束したのに動きの悪い商品は引き取らない、此方はどうしてくれるのだ、となる。
アパレルにとっては、今まで、いくら百貨店が約束してくれても、PB(=百貨店自主企画)ですら、返品は当たり前、ヘンに“お願い”に上がろうものなら取引停止のリスクも覚悟しなければならない。よくても「来年まで持ち越してくれ」。交渉がうまく行かないと、受注した担当者に責任ありとして、アパレルは社内人事で降格、賞与カット、残した在庫は他ルートで原価割れの処分、となる。
十年前までは、これでもアパレルにとって、百貨店取引は全体として企業を継続出来るだけの儲けもあったし、また、百貨店以外の販路も容易に考えられなかったのである。
乗り遅れた百貨店
多くの優秀な百貨店アパレルに支えられ、百貨店は本来の“買い”の努力を怠り、商品政策上の改革に踏み切れなかったか。また、ラグジュアリー・ブランドの導入や、消費者に支持されない“「拡・超・脱」百貨店”化に向けての投資を優先させた結果と言えるだろう。
勿論、アパレル側にも多くの犠牲が出た。特に、この商品なら何処にも負けない、百貨店で売れる商品さえ作っていれば絶対倒産することなんかあり得ない、という“もの造り”を社是としてきた企業が傷んだ。凄まじい「低価格化」の流れが有ったとはいえ、惜しいことである。
アパレルの“モノ造り”は進化した。徹底した生産量の抑制努力である。例え、百貨店であろうと、100着の受注に対し100着作ることは無い、ということである。売れ行きを見て追加生産する、あるいは店頭在庫の把握が進み、売れない店から売れる店に店間移動する。また、店の追加要望を無視して、新規の商品を投入する、など、アパレル企業の利益を優先した商品展開を行っているのが現状である。
「コラボ取引」の成否は百貨店側がどこまでアパレル側の信頼を回復出来るかに懸かっている、と言えるだろう。
有力百貨店と大手アパレルのPBブランドによるコラボ取引が進められている。衣料に止まらず、靴、バック、アクセサリーなど幅広い商品分野に亘るケースもあるようだ。百貨店の真剣な取組みに期待したい。 |
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2004/9/1掲載 |
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