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宿屋四郎兵衛
「辛口ワンポイント」
(2003.9.1〜2005.4.20)
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No. 27 |
小泉 八雲
小泉八雲といえば学校の教科書でもおなじみで多くの“怪談”もので知られる。「耳なし芳一」や「雪おんな」と聞けば懐かしさ、昔のことがこみ上げてくる。本名ラフカディオ・ハーン、日本を愛し、また日本人に愛された作家である。今年は没後100年、1人の作家としては異例の記念行事が数多く執り行われてきた。
ゆかりの地の松江、熊本、東京などでは“妖怪ブーム”も追い風となって人気を呼んでいる模様だ。 ハーンが初めて日本を訪れたのは1890年のこと、日本を「小さな妖精の国」とその印象を記している。教師でもあったハーンは、松江を中心に日本の古い歴史や文化を題材として多くの作品を発表してきたのである。
没後100年を経て、なおその人気は衰えを見せることはない。1894年に熊本五高で行った講演「極東の将来」では、“贅沢になってコスト高の生活に慣れてしまっては、国際競争力を無くしてしまう、と日本の将来に苦言を呈してもいる。今日にも通じるところの活き活きした迫力を持つ作家ではある。
「かけひき」
ハーンの数ある作品で、特に印象に残るものとしての一作に「かけひき」がある。
時代は江戸の頃、1人の男が過ちを犯してしまい、奉公先の主人に首をはねられることになった。お屋敷の庭に引き出され、さあいよいよ首を打たれるというところで男が、ちょっとしたあやまち位で首をはねられるなんて道理に合わない、納得なんか出来ない、と大声で喚き散らし、化けて出てやるからそう思え、と主人や周りの朋輩達に凄んだ。
するとこの主人、少しも怯まず、お前が本当に化けて出てくる力があるなら、その証拠を見せてみろ、首を切られたらその首であそこの石まで飛んでいって、石に噛り付いて見せろ、と言ってのける。男も「噛むとも、噛むとも、キッと噛んでやるわい」と怒鳴り返す。
いよいよ首が切られる、すると切られた首が見事に件の石まで飛んでいき、ガシッと石に噛り付いた。
さあ、見ていた朋輩達すっかり怖気づいてしまうが、主人は一向に動じない。皆が、アイツ化けて出ますねぇ、と言うと主人はきっぱりと、それはない、アイツは確かに化けて出るだけの力はあった、だが、死ぬ瞬間にアヤツの頭は石に噛り付くことで一杯になり、化けて出ようという思いは消えてしまっているはずだ、と断言する。
その後、男の幽霊は現れなかった、という。
商店街活性化
この話からいろんなことが考えられるが、大事なことは“目的”とは何か、“ハッキリした目的を持つ”、ということはどういうことなのかを考えさせてくれる。
件の男にとって本当の目的は化けて出ることであった。しかし、間際になって主人の一言に見事に乗せられてしまう。“石に噛り付くこと”に目的がすり替わったわけだ。
商店街活性化にも、あるいは企業再生におけるリストラ策にもこの種の話が多いと懸念される。何時の間にか本来の目的から遊離して、目先の目的に固執してしまい、こんな筈ではなかったということが常に起こる。
商店街から人が消えた、大変だということでお祭りだ、ポイントカードだ、チラシだ、大きな広告を打つべきだ、いや安売りの回数をもっと増やそう、最近で言えばケイタイ販促だ、ホームページの活用だ、と挙げ始めれば枚挙に遑がないくらいの施策が飛び交ってきた。
「稲むらの火」
先日、機会があって全国商店街振興組合連合会の桑島俊彦理事長のお話を伺った。全国の数ある商店街でアンケートを取ったところ「繁盛している」と答えた商店街は僅か全体の2%強に過ぎなかったという。都内にはおよそ2,900の商店街を数えるものの、状況は変わらないとのこと。
どの商店街も手を拱いてきたわけではない。いろんな施策が打たれ、また税金も投入されてきてはいる。しかし、当面の活性化行事には役立っても本来の、というか根本の商店街の課題解決とはなり得ていないのが現状だ。単なる一時凌ぎではどうしようもない段階と言えるだろう。もっと目的を明確にした施策が望まれる。
目的をすり替えてはいけない。目的は、個店それぞれが繁盛することだ。個店が儲かれば商店街も活性化する。まず個店ありきであることを肝に銘じよう。
ハーンと言えば、大津波を予知して村人に知らせるために自らの稲束を燃やす「稲むらの火」という一章も印象深い。 |
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2004/11/1掲載 |
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