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日本繊維新聞(ニッセン)投稿集
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8. 2009.01.20
「魅力ある産業へのチャンス『豊かさ創造』を強調せよ!」 |
クルマの販売王と称された営業マンは、セールスに歩かなくても顧客から電話がかかってくると豪語した。近代社会はクルマを持つことによって(それも時代に合わせてメーカーが売り出す車種に合わせて買い替えることが)消費者の幸せを生み出してきた。クルマが豊かさの象徴だった。
とはいえ、この販売王は決して座して電話を待っていたわけではない。道路を走っていてクルマがエンコしていたら、必ず自分のクルマを止め、エンコ車の下にもぐりこみ、泥だらけになりながらも修理に取り組む。その場で叶わずともできるだけのアドバイスをするのだ、と何かで読んだ記憶がある。今のクルマはそう簡単にエンコしなくなったものの、困った時の名状しがたい感謝の気持ちは、人間としてまず忘れることはないだろう。
今度買い替える時は、今までの切り難い義理があっても「あの人から買いたい」と思うのが人情だ。ここに販売の原点があると言える。自動車保険だろうとアパレルだろうと、そこに売り手と買い手の心の通う道筋がある。
商業は「豊かさの創造業」そのものだ。
繊維は「豊かさの創造業」たり得る
クルマこそ「豊かさを代表する製造業」であったといって言い過ぎではない。
クルマがもたらした社会の変貌は、ショッピングのあり様を変え、また商業全体の構造そのものを変えてしまった。百貨店の時代から、駅前商店街の賑わいを奪い、郊外にとてつもないSCを造り上げて地方消費者の度肝を奪い“消費が作り出す生活の豊かさ・快適な生活”を実感させてきた。地方と呼ばれた地域は、こと消費に関しては近郊の大都市との格差がなくなった。
クルマだけではなく製造業による大型国内工場建設のニュースは、地方経済に雇用のチャンスをもたらしたものの、その多くが派遣労働を柱にしていたとは何とも皮肉の限りではある。期間労働者問題を含めて、経営トップは“資本の論理”を建前としたグローバリゼーション時代にあっては止むを得ないとの姿勢を貫く構えである。
社会問題化した派遣社員制度をよそに、同じ製造業でありながら繊維関連の工場には、日本の若者達は魅力を感じていない。皮肉にも、海外研修生を中心に成り立っている。繊維事業こそ「豊かさの創造業」であることを強調する時代なのだ。従前のように官僚に依存することなく、自らの手で魅力あるファッション産業を創造するチャンスが到来したというべきである。
幸いにして繊維事業は製販一体型、もしくは製販連携で成功するビジネスである。ファッションこそ人の気持ちを豊かにするビジネスなのだ。 |
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