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日本繊維新聞(ニッセン)投稿集
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13. 2009.06.11
「トヨタかんばん方式の限界 目的と手段」 |
閉塞感あふれる小売店頭やアパレルメーカーの現状を見るとき、改めてファッションビジネスのあるべき理念を考え直す必要がある。
ファッションビジネスの経営理念は、(1)成長戦略、(2)競争戦略、(3)リスク戦略、(4)コスト戦略、の4つに集約できる。中でも「成長戦略」とは、売上を前年より伸ばし、店舗数を拡大することではないことは自明だ。「売上高ではなく、粗利額(粗利率)を上げる」ことだと断じる向きも未だに存在する。ビジネスである以上、利益志向はある意味当然のことであって、問題は利益の確保できる体質・仕組みづくりのための「販売品質」にあるのだ。「販売品質」をアップさせる成長戦略を取ることができるかどうかが今日の企業に課せられた課題だ。そのカギを握るのは、その事業に携わる「人」そのものの心理であることに注目したい。
会社が「販売を完遂させるためのマシン」であることは、今回の「GMショック」でも明らかだ。世界一の規模と技術を有しているからと言って、顧客を忘れた企業に存続の可能性は許されない。まさに「GM帝国」としての慢心が「破産法適用」を生み出した。自業自得そのものと言えよう。
トヨタかんばん方式の持つ「数値化」と「標準化」も、あくまで手段であって企業の目的ではあり得ない。トヨタの膨大な赤字決算がこの事実を証明していることは言うまでもない。
「販売品質」は人によって担保される
人間が、宿命的に非科学的な性格を有していることを否定する科学者はいない。人間は本能的、かつ直観的であることは、あの本能寺の変をはじめ多くの歴史が証明してくれる。人は情緒的、かつ心理的に、時には他人には理解できない行動に走ることがあることは何人も理解し得よう。
生活者の持つファッションに対する心理は、店頭に立つあなたの会社のブランド担当販売員の気持ちを鮮やかに表現していると考えねばならない。会社の事情ではなく、生活者の目線で店頭の「品質」を考えない限り、苦境からの脱出はあり得ない。
「人」を犠牲にしての企業存続が、あるいは「人」を踏み台にしての企業再建が果たして成功すると信じられるか、甚だ疑問とせざるを得ない。そこには、とても良質の「販売品質」が提供できるとは思われないからである。一時的には、赤字から脱し再建が成功したかに見えるだろう。しかし、その企業は再び危地に陥るものと覚悟しなければなるまい。
ファッションビジネスの「販売品質」が、会社を構成する「人」によって担保されていることを忘れて明日はない。 |
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