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宿屋四郎兵衛
「パワフルワンポイント」
(2005.5.20〜2007.6.1)
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No. 7 |
体力測定のすすめ
景気は上向き気配だ
景気は全般的に踊り場から幸い上向きに転じている模様。もちろん、すべてが良いわけは無く、格差が出るのはいつの時代も当たり前のことである。極端な例は、今夏の「クールビズ」、シャツが飛躍し、ネクタイが沈んだ。しかし、全体の消費を盛り上げた功績は大きい。いずれネクタイは復権する。
最大手アパレル会社のトップの話をきいて気が付くことは、やはり厳しい時にどんな手を打ってきたのかということである。世の中や世界経済全体の流れもあり、日本経済もつねに変動する。加えて、個別企業のみを取り巻く「なんともついていない」というしかない事態も起こりうる。それだけに経営者は風向きを判断して、しっかり進むべき道を見定め手は打たねばならない。
この会社、メンズの最大手企業でもあるだけに、「やはりシャツが良く、スーツ・ネクタイはイマイチだった」とは言う。しかし、メンズ全体を持ち上げるファッションの流れが続いており、不振アイテムがあるとはいえ決算を控えた数字は上々とのこと。全体でも「久しぶりの好決算になるだろう」。
読者の多くがすでに経験済みのことであるが、「良い方向に流れが変化している時はほっておいても数字は上がる」のである。問題は流れの悪い時なのだ。表現を変えれば、今まで続いた「逆境の時」に会社が何をしてきたのか、どんな手を打っていたのかが問われる。
これは、多くの逆境を経験した会社のノウハウともなるものなのである。
経営の基本は「販路」だ
この春、業績絶好調を目前にしたこの会社、新社長を迎え経営陣若返りを断行した。旧経営陣で難局を乗り越え、新世代にバトンタッチしたのである。見事な采配ぶりである。
旧経営陣がこの数年の厳しい時に特に手を打ったこと、それは百貨店へのこだわりを捨て、新しいチャネル政策を打ち出したことだと評価したい。「ファッションは、百貨店だ」「長年百貨店にお世話になってきたのだ、今さら百貨店を見限るような行動は許されまい」、まして世間の眼は無視できない。「とうとうあの会社も脱百貨店か」。
しかし、旧経営陣に百貨店への思いに変化があったとは思えない。百貨店の持つ「力も良さも夢も」、彼らはむしろ、百貨店人以上にこだわってきた。しかし、自社を維持・発展させる使命は果たさねばならない。
多少なし崩しの観はあるものの、販路政策において従来路線から大きく舵を切ったことは事実だ。SCを中心に直営ショップの拡販が進み、百貨店のウエイトは相対的に低下しているはずである。
この勇断が会社を大きく前進させた。
経営の原点は、やはり売上げにある。「売上げより利益だ」とは、バブル崩壊後の定説ではあった。これが結果としては多くの企業を救ったかもしれないが、同時に多くの名門企業の崩壊をもたらした。「利益優先志向」が、リストラという苛烈な経営手法の背景をなす理念ともなり、戦後の「日本式経営の極意」ともてはやされた終身雇用、退職金制度、定昇の仕組み等の多くを崩しさった、ともいえる。
新しいステージに向けて
「利益を上げるには、やはり売上げをあげることだ」との経営の原点回帰は、今後急速に高まるに違いない。どのように考えようとリストラ、経費縮小だけで企業が生き残ることはできないからである。売上げをいかに高めていくかが問われる時代がきた、のである。
しかし、ステージが変わっていることには注意しなければなるまい。従来の「既成販路=ルート」で、再び売上げを上げていくことはあり得ない。ステージが異なるのである。なによりも、直接消費者に接する小売段階がバブル期以降激変している。消費者自身のモノに対する見方、捉え方、また「買い方」にも大きな変化があるからである。
そして、なによりデフレの進行、小売価格の低下傾向はまだ続行中なのである。海外でのモノづくり、生産のグローバル化の拡大は、まだまだ国内の小売段階に大きな影響を及ぼすはずである。既存の業種・業態に打撃を与える可能性は決して終ってはいないという危機的状況にあることは認識しなければなるまい。その中で経営者は「新しいステージ」へ自社の生き残りをかけた舵を切らざるを得ないのである。
「体力測定」のすすめ
新しいステージの進展でどうしても留意しなければならないこと、それは自社の体力測定である。どの企業も多かれ少なかれリストラ(もどきも含めて)を断行されているはずである。いうならば、明らかに体力は落ちていると覚悟せねばなるまい。
落ちた体力のまま、時代の流れに合わせて一気に走ることは危険である。この際、自社の体力をしっかり見直しすることをお勧めする。客観的に自社のことを眺めて見ることから始めても、決して遅くはない。
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東京問屋連盟:問屋連盟通信:2005/8/20掲載 |
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