今塾 by 今宿博史 - 営業戦略おもてなしショップ - IMAJUKU by IMASHUKU Hiroshi
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宿屋四郎兵衛
「パワフルワンポイント」
(2005.5.20〜2007.6.1)

No. 17
勇気の背景

久々の秋冬商戦
 景気回復を象徴するかのように、昨11月以降の各社の好業績報告が続々と集まってくる。十数期ぶりに売上げが前年を上回り、うれしいけれどどうにも信じられないという会社もある。11月、12月と気温の低下もあって、店頭が活況を呈した結果であろう。
 ただ、多くの企業が“暖冬”予測で販売計画を立てており、そのせいか1月に入ってからは商品が薄く、売上げは前年並みに落ち着いている模様だ。いわゆる、玉不足で、確かにどこの店を見て歩いても品薄状況が見て取れる。本来、1月の売上げの大半がマークダウン商品で占められるだけに今年の店頭は静かではある。
 新春の福袋商戦が終って一斉にスタートする各百貨店、ショッピング・ビル等の「期末バーゲンセール」「スパークリング・セール」など、いま一つ迫力がないようだ。
 加えて、多くのブランドの梅春企画も、例年通りで、そう積極的ではなく“お茶をにごす”程度であるだけに余計賑わいには程遠いものがある。2月に入ると、「決算処分」等バーゲンセール企画が目白押しのはずではあるが、適品不足とあっては、例年にない静かなシーズン末を迎えそうだ。
 春物企画も例年通りの数量計画である可能性が高いと思われる。
冬物商品は11月に早くも火が付いていた
 ある有力ファッション・ストアの社長のお話では、冬物に火がついたのが
16年(昨季)が12月20日、それが今季17年は11月10日。なんと1ヵ月も早かったのだ。問題は、この火がついたことの認識に、各社で差が出たことにある。その時点で手が打てたかどうか、である。
 社長の分析では、
(1) 暖冬予測である
(2) 例年、プロパーで売れるのは12月一杯で、遅くとも1月初めからセールになる
(3) 品余りより品不足が儲けにつながる
ことから、「もう少し様子を見るか」が当時の判断であったという。しかし、11月で早くも新規展開分の多くが品切れになっており、追加発注するかどうか、担当者には厳しい予測が迫られていたようだ。
 アパレルは季節商品であるだけに、発注の読みひとつで業績に多大の影響を与える。以前のように「とにかく作っておけ。残ったって何とかなるよ」の時代ではない。あるいは、残れば「1年寝かせておけ」も通らない。金額の張る冬物だけに、残れば会社の命運を左右しかねない。とにかく、その期で売り切るのが鉄則だ。
 トップを含めての「発注か、否か」の判断が、当期の業績にはっきり表われる瞬間である。
 蛮勇が許されないだけに発注担当者のシーズンを見通す目、そして生産背景から店頭展開までを含めたトータルとしての可能性ある企画力、リスク分散力を含めた経験がものを言う。もちろん、トップのアドバイスも重要だ。

商品発注における勇気
 あるアパレル・メーカーの担当者は、1月15日上がりのコートを11月末の時点で手配し、全数サンプル段階で予約完売したという。売り込みに来た当の担当者に、件の社長も心配になって「今から、しかも1月中旬製品上がりで大丈夫?」と繰り返したという。マークダウン対象になってしまうことを恐れられたのだと思われる。誰もが感じることだ。
 だが、この担当者には深い“読み”があって、「大丈夫、この冬はいけますよ」との理由付けとともに、でも、万一外れた時には、これこれで、このように完売できます、との自信をのぞかせたという。
 もちろん、この結末は“読み”通り。こんなことが今後も続くとは思われないが、「状況を読む」ことの大切さをしみじみと思い知らされた。決して一時の思い込み、蛮勇ではなく、発注に踏み切る裏に綿密な計算ができ上がっている、当然といえば当然のことであるが、決して一朝一夕にできることではあるまい。
 推測の域を出ないが、この担当者、数々の失敗を今日まで繰り返してきたに違いないと思われる。単なる偶然の結果とは、とても思えない組み立てができているからである。

経験こそものを言う時代
 アパレル、と限定するまでもなく、日本全体のすべての消費市場が飽和状態にあるなかで、ある商品の売上げを突出させることは容易ではない。また、ある、予測せざる商品が突出すると必ず別の分野の商品が凹むことになる。
 今季の商戦から、何時、どんな事態に発展するかの予測が一層難しくなってきたことを学ぶことができる。この時代を乗り切るには、若さや、従来にない発想の人を求めるだけでなく、多くの場数を踏んだ人材の登用が企業運営に有用なのではないか、と感じる。いわゆる、“酸いも甘いも”かみ分けられる人材である。
 この業界も混乱期を経て、安定期に向かいつつあるとすれば、商売に“奇手妙手”があるわけでなし、着実に事業を推進でき、気温の変化などの状況に応じて的確に手の打てる人が望まれることとなる。
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2006/2/1掲載
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