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宿屋四郎兵衛
「パワフルワンポイント」
(2005.5.20〜2007.6.1)
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No. 26 |
“クールビズ”がもたらす新しいビジネススタイル
冷ややか、クールビズ
2年目を迎えた“政府主導”のクールビズ商戦。昨年の過熱振りから見ると様変わりの感は否めない。クールビズに続いたウォームビズが結果的に大した効果をもたらさなかったことによるのか、それともクールビズそのものが盛夏商戦の当たり前の現象として溶け込んでしまったのか。
各国大使や「ポスト小泉」とはやされる有力閣僚を配した環境省主催の官製ファッション・ショーも昨年ほどの話題提供とはいかなかったようだ。
冷めた見方を得意とする業界紙記者の言では、「メンズ消費者全体の内、クールビズに興味を持ち、昨年に何らかの商品を購入した人が半分、この人たちは今年は、まず買わない。昨年も興味を持たなかった人は、当然今年も関心を示さない、よって今年はダメ!」とのご託宣。
確かに、“異変”としか言いようがない今年の低温多雨の天候要因が大きいものの、店頭における消費者のクールビズへの反応はかなり鈍い。“二匹目のドジョウ”期待薄の状況下にある。
思えば、昨17年度のヒットアイテムは「上半身を涼しくする」がテーマ。ノータイ対応のボタンダウン・シャツやインナーのV首下着などの売れ行きは凄かった。もちろん、“猛暑”の中のクールビズという追い風もあったのだ。
翻っての18年度のクールビズ。結果を判定する「父の日」商戦の動向が大いに気になるところ。期待を担って店頭を彩る数々のクールビズ用新商品がメンズ業界の活性化にさらなる一石を投じ得ることができるのか、しかし、もう結果は見えてきているようだ。
クールビズの意味
クールビズの恩恵を最も受けたのは、やはりメンズの業界、上げ潮気配にあったメンズにとってクールビズの話題は決定的な影響をもたらしたと言えるだろう。
昨17年度の6月は、百貨店で前年同月比3.8%の増加、総額が前年割れを続けていたチェーンストアでも3.6%の増加と20ヵ月ぶりのプラスを記録している。「夫や父親の復権」とまで揶揄されながらも、お父さん自身によるファッションの買物行動で、「確実に山が動いた」ことを実感された小売店の方も多かったはずだ。長年マンネリ化し、沈滞を続けてきたメンズの業界に、まさに久々の新商品開発ラッシュ(というと大げさではあるが)を巻き起こしたことは、記憶に新しいところである。
それだけにクールビズを単なる「ブーム」に終わらせることなく、メンズ全体、さらには「ライフスタイル・マーチャンダイジング」の原点としての意味をしっかり確認しておく必要がありそうだ。
これは、筆者自身の反省を込めてではあるが、クールビズは、単なる販売促進の手段に止まるものではなく、あるいは店頭における盛夏対応の単なるVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)の一材料の域にとどまるものものではない、との認識を持つべきものと言えるだろう。
文化ファッション大学院大学青木先生の話を聞く機会があり、改めてクールビズに対しての認識を新たにした。クールビズは、「新しいファッションのビジネススタイルを提案するもの」との認識である。一時的な“流行としての”ファッションではなく、新しいビジネススタイルを提案していることを見抜く必要があろう。
本年の数字結果から、単なる流行語に終わらせてはならないのである。
「一等航海士」の存在
先日、ネット販売の世界で急成長中の社長さんから、「ウチには、たとえ億の金を積まれても手放せない人材がいますよ」との話を伺い、大変感銘を受けた。
「一口では言い表せないが」とおっしゃる件の社長さん、あえて表現すれば「一等航海士、ですよ。多分このネット販売の世界でも10人といない人材です」とのこと。人材を探し歩き、人材を育てることの重要性を説き、実践することに使命感を感じる一人として、まさに感激の一瞬である。
「ネットの技術に精通し、それなりの仕組みを立ち上げることのできる技術者はごまんといます。しかし、使いやすく誰でもが「BtoB」に簡易に参加でき、経済性があり、合理的に運用のできるウチの仕組みを立ち上げられる人材は、まずいないでしょう」「ここに当社が他社を凌駕する優位性があるのですよ」とのこと。
多少の自画自賛を横に置くとしても、実際にその仕組みを利用させてもらっている一人として説得力は十分である。「そうか、そういう背景が今日の同社を作り上げてきたのか」との納得である。
ビジネスの仕組みとしては、短期間で賞味期限が切れるものでは投資していくだけの価値はない。創業者の「夢」「熱意」「使命感」等が結実するには長く、厳しい伏線があるはずなのだ。
「結果を求めない」
ファッションの業界では、まだまだ短兵急に結果を求めがちだ。親しくさせていただいている衣料チェーン店の社長さん、やはり人材を得てネット販売に進出、「突然商品が爆発的に売れて本業そこのけで対応に追われることもしばしば」、「しかし、何が何時売れるか全く判らない」、ので実感が湧かない由。
上手い話ばかりがあるわけでもないだけに結果は急ぎません、と明快だ。
新しいビジネススタイルを実現させるには、そう生半可な努力でいくはずがない。クールビズのシナリオを求め、敏腕のディレクター(デザイナー)を招き、優秀なカメラマンも必要、骨身を惜しまぬスタッフにも恵まれる偶然も必要だ。
「一等航海士」とも言うべき「ファッションプロデューサー」、こちらも世界に何人も存在しないはずである。しかし、人は創り、育て上げるもの、機会を与え存分に手腕を発揮できる環境を作ることは創業者・オーナーの仕事そのものだ。
クールビズが起爆剤になることを期待したい。
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東京問屋連盟:問屋連盟通信:2006/6/20掲載 |
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