今塾 by 今宿博史 - 営業戦略おもてなしショップ - IMAJUKU by IMASHUKU Hiroshi
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宿屋四郎兵衛
「パワフルワンポイント」
(2005.5.20〜2007.6.1)

No. 33
川崎LAZONA開店

変貌するか、川崎
 JR川崎駅はご存じの方も多かろうが、昔ながらの喧騒を極める東口に比して、西口は日本を代表するような工場群が駅に接して発展してきた。その工場跡地に新しい商業施設が生まれたのである。東口には日本でも有数の繁華街が、地下街から“銀柳街”等に続いている。
 改札を出て、今までは脇目もふらず一目散に右に向かって歩いたのだが、俄に左を見ると広大な明るい展望が開けているのにハッとする。印象は、アウトレット・モールをイメージさせられる。今まで多くの商業施設を見てきた感じで直感的にアウトレット・モールを連想したのだ。それほど明るい開放感が、東口とは異なるイメージを与えてくれている。
 東口の澱んだ空気、猥雑間、圧迫感とは明らかに異なる空間が開けている。
 9月28日、ラゾーナのオープンによって、東口の地下街、銀柳街等に大きな変化はないように見受けられる。人通りはいつもと変わらない。事実、いくつかの小売店で話を聞いてみてもさほど気にはしていない様子に驚かされる。“戦々恐々”には程遠い。
「そういえば西口にできたようですね」程度で、オープン後、売上面でも目立った変化(数字の落ち込み等はない)は見られないという。「電車でくるお客が多いそうですね」「それも、かなり遠方から見えるらしい」との評である。東口と西口とは、商圏的には分断されていたのだ。
東口の有力小売店で、この施設川崎ラゾーナに出店したところは、呉服の老舗天野屋くらいである。
川崎商圏は、140万の人口を擁しながらも、駅前エリアの商圏は、40万人が精一杯。東京圏、横浜圏という巨大マーケットに挟まれ、引っ張られて商圏は分散してしまっているのが現状である。

“お買物”の街から“ショッピング”を楽しむ街へ
これだけの大都会でありながら、百貨店が1店舗しか存立し得なかった事実が、この商圏の特殊事情を示している。西武百貨店がいつの間にか、ひっそりと撤退してから日数は経っていない。また、残ったさいか屋川崎店の店内ゾーニングからは、とても都心型百貨店のそれではないことに注目しなければならない。
西武百貨店が撤退せざるを得なかった理由が、この商圏には西武百貨店の目指した、若く、そして洗練された都心型顧客がいなかったという事実に直面する。徹底して分析をしたわけではないが、東口の印象は地方都市の繁華街を連想させるし、また、顧客の年齢も概して高いと思われる。また、銀柳街に溢れる自転車群からも、駐車場を必要としない“お買物”商圏の特徴が現われている。
大学や高校のキャンパスがない、ということも大きく商圏形成に影響しているようだ。ラゾーナの中にも、普通、新施設・店舗等のオープンに集団で群れを成す制服の一団がほとんど見られない。
オープン間もないせいで、背広姿の業者らしき人々が目立ったほかは、ベビーカーを押す若い女性顧客がやたら気になった。これは東口にはない風景ではある。通路が広く、またベンチ等休憩する設備がふんだんにあることも、高齢者やベビーカー客には好評のようだ。川崎には無かった“ショッピング”を楽しむ街の出現だ。

ニューSC時代の到来
 正式名称は、「ラゾーナ川崎プラザ」。三井不動産が開発する商業施設で、今秋から来春にかけて首都圏に新設する4つの商業施設の第一弾なのだ。三井不動産といえば、日本橋の再開発に続き、目下八重洲口の再開発を手掛けている。
ラゾーナの印象を直感的に「アウトレット・モールのイメージ」と書いたのは、以前に南大沢や幕張で三井不動産が開発したアウトレットに出店した経験から、その独特の施設の作り方から感じたことではある。
また、出店企業群の構成からも従来の駅ビル商業施設とは異なるイメージを与える。核は、4層の「ビッグカメラ」であろう。それに、「コーチ」「バナナリパブリック」などの高感度ショップ、さらに「ザラ」「ユナイテッドアローズグリーンレーベルリラクシング」などの都市型カジュアルショップを加え、「ユニクロ」「無印良品」「ロフト」などの定番も押えている。「丸善」が入っていることが、本格的書店のない川崎には目新しい。「アカチャンホンポ」の存在がベビーカー顧客を強力に誘引すると思われ、また子ども服関連のショップが他の施設より目立つのも特徴であろう。「上質から値頃」までの287店舗で、ビッグカメラを除いて350億円の売上が見込まれている。
三井不動産の計画では、広域型、ライフスタイルセンター、アウトレット・モール、それに都心型の4つのカテゴリーで今後、開発を進めるという。
他の有力不動産企業やJR駅の再開発等、計画は目白押しで、まさに日本全国ニューSC時代を迎えている。

格差社会の進展
 流行(はやり)の言葉で締めくくるのは本意ではないが、再開発の進行は、一方で、さらなる多くの“シャッター通り”を生み出していく。結果はこれからであるが、川崎の答えが気になるところである。従来の小売店は、さらに厳しい状況に陥ることが予測されるからである。
 小売店経営のポイントは、「交差主義比率」にある。「粗利益」×「回転率」から算出できる。どちらも大事だが、どちらを取るかと訊ねられれば、今は「粗利」の確保を優先すべきである。新しい商業施設の造成で、客の流れが変わるのだ。手を拱いているわけにはいかない。仕入の目利きを活かして、粗利の取れる商品で勝負したい。
 安倍内閣の誕生は、明らかに潮目の替わりを意味する。経済の流れは、デフレ・モードからインフレ・モードへのギアチェンジの時期でもある。一斉に多くの、今まで鬱積されてきた気分が放出されることになるだろう。水面下で計画されてきたことが一気に表面化する。
 足許をしっかり固め、目先の動きに動じないことが肝要である。
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2006/10/1掲載
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