|
|
宿屋四郎兵衛
「パワフルワンポイント」
(2005.5.20〜2007.6.1)
|
No. 38 |
景気は回復したのか?
漸く、動き出した防寒着
例年より確かに動きは遅かったのではないか、と思う。
11月に入っても一向に動きが見られず、しかも昨年の秋冬商戦が良かっただけに先行きを悲観する向きも多かったのではないか。アパレル、小売とも「全社挙げての店頭集中」へと拍車がかかっていた。しかし、さすがに12月の声を聞くとともに気温もようやく下がり始め、店頭は一様に安堵の色が濃くなってきた。クリスマス商戦らしい流れが生まれて来ている。
例年早まってきたマークダウン時期についての喧騒も今年ばかりは記事にもならず、模様眺めの感が強い。まだまだ勝負はこれからなのだ。しかし、一方で百貨店を始め、ブランド・メーカーは、福袋の準備に追われている。12月商戦のウエイトが下がってきた反面、1月の比重、分けても福袋に依存するところが大きくこれが、生命線なのだ。
今のところ、コート、セーター、防寒肌着、手袋、マフラーなどの防寒衣料で、作り過ぎて首が回らず在庫増に苦しんでいる企業の噂も聞かない。どの企業も過去の失敗に十分な学習効果を得ているのであろう。
コート商戦は低調?
昨年、活況を呈したコート商戦、今年は期待が大きかったわりには全体にいまいちの感が拭えない。9月、早々と前シーズンに気に入った商品が買えなかった層が動き、“ウールコート出足好調”と報じられたが、その後は目立たない。
天候要因だけでなくファッショントレンドの追い風もあり、各メーカーとも「今年も」の期待から諦めきれない様子である。
昨年は、11月中旬に気温が下がり、コート商戦に火がついた記憶がある。月末には早くも品不足に見舞われ、思い切って追加生産に踏み切り、1月中旬の上がりを即断した会社が勝負を制した。今年は、1ヵ月遅れでの「火が点く」かどうか、微妙な時期を迎えている。
今年もブーツを見かけることが多い。ロングブーツにジョッキータイプなど種類もさまざま。そして、バッグだ。ツィード調のものまであり多彩。ファッションは、昨年ブレークした手袋などに共通する「ファッション小物」がポイントとなっているようだ。「コート」「スーツ」といった大物から小物への流れ。
これが「豊かさ」消費の象徴なのか。
クリスマス商戦
クリスマス・プレゼントに関して、こんな記事に出くわした。「彼、夫からもらいたいプレゼント」の平均金額3万594円、「贈りたい」平均2万913円とある。その差、1万円は昨年の5千円の倍になったという。「もらいたい」もの、アクセサリー、バッグ、時計の順で昨年と変わらず、「あげたい」ものは、洋服、財布、そして時計に替わってネクタイが浮上、これが金額の差に表われているという。
顧問先であるアクセサリー等雑貨卸会社の数字で見ても、10月以降の出荷ベースが例年の1.3倍以上であることでこの事実が裏付けられる。ただし、景気の話と同じで、アクセサリーが良いからといってすべてのアクセサリーが良いわけではもちろんない。売れない商材が足を引っ張る。
売上が増えても、仕入も増え結果的に在庫増をもたらすこととなる。
ブランド・バッグの強み
クリスマス・プレゼントの一環か、若い女性が頑張った自分への1年の「ご褒美」として、お気に入りの「ラグジュアリー・ブランド」のバッグを買う傾向が指摘されている。
百万円前後のバッグも珍しいことではないという。ヴィトン、エルメス、グッチ、シャネル等が、今までの百貨店売場から飛び出して、銀座、原宿等の一等地に直営店を構える傾向が続いている。巨額の投資だ。言うまでもなくこれらのブランドを支えているのは、まさにこういった女性パワーなのであろうか。
さすがに、無敵を誇るヴィトンですら売上は、前年を割り始めた店舗が出始めているといわれるものの、その投資パワーは依然半端ではない。
成熟化社会においては、景気など無関係に消費は行われるのだ。
とはいえ、例えばエルメス。代名詞ともいえるシルクプリントのスカーフの売上が激減しているという。もちろん、バッグの売上は依然品薄状態であり、非常識ともいえる小売価格で販売されている。吟味された原材料、高い製造技術に裏打ちされた一品である。使えば使い込むほど、品質の良さが現われるというだけに心憎い。飾るものではなく、使用して始めてその価値が出るのだ。
使ってみないと、その商品の良さが判らない。「安さ」「使い捨て」の消費感覚が問われる時代もまた、「豊かさ」消費の特徴だ。
“まやかし”の「いざなぎ」越え景気の推移
景気回復は、59ヵ月目。依然景気回復は、データ上では根強い。
中小企業の求人意欲は強く、地方にも仕事が回ってきた感はある。でも、内閣府公表の分析レポート「日本経済06〜07」では、「最近の景気減速は賃金の伸び悩みによる消費の鈍化が影響」と指摘されている。「労働分配率はさらに低下を続ける可能性も否定できない」との見通しだ。
企業減税等で企業や富裕層が回復すれば、それが低・中所得層にも浸透するという「トリクルダウン」政策が、果たして有効であったのかどうか、難しい段階である。企業は空前の利益ながら労働分配率は低下を続け、家計消費や賃金の伸びは再び鈍り始めている。「消費に本格点火しないまま景気は踊り場からマイナス成長へ」のシナリオもあり得るのではないか。
「7〜9月期GDP、大幅下方修正」で、今年度「名目2.2%成長、絶望的」の記事が出てきた。個人消費と設備投資がさえない民需不振の状況が確認されたのだ。
忘れてならない事実は、私たちは新しい経済環境下にいるということであろう。成熟化した経済においては、爆発的に何かが売れれば、他の多くの商品が売れ残るという現実である。一般論ではない。
|
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2006/12/20掲載 |
|
|