「はた・らく」こと
高校生向けに話をする時、決まってこの「働く」の意味を問うことにしている。
「にんべん」に「動く」と書いて「働く」、これを分解すると、「はた(傍・側)」を「楽にする」ことが、「働く」の原点である。日本人は、歴史的に隣人に配慮し、お互いを助け合って生活してきた。
最近は、田舎でも近代的なホテルや式場ができたために結婚式は、式場任せで行うことが多いが、葬式となると隣組の方々が集まり、組長さんの差配で親族の面倒から列席の人々に対する面倒(受付や香典、供花、お供養など)まで見てくれる(さすがに、今は田舎といえども式場で行われることが多くはなったが)。
もはや死語ではあるが、「村八分」とは、葬式と火事以外は隣近所が手伝わない、ということであった。
他人(ひと)のためにはたらくことが、日本人の美徳であり、ファッション販売においても、自分のファッションには興味はあるが、他人(ひと)のことはどうでもいい、と考える学生には、元々お店で働く資格を持たないのだと説明する。
ファッションの楽しみ
他人(ひと)を綺麗にしてあげたい、あの人の良さをこの衣装で引き立ててあげたい、この服をお召しになれば、きっと幸せな気分になり、一段と生活が楽しくなりますわ、いかがです?
「私、ファッションが好きなんです」が動機でこの業界に入っても、自分のことしか頭にないようでは、販売員としては一流になれない。
優秀な店員は、お客様の喜ぶ顔を思い浮かべ、わくわくしつつ、ご来店をお待ちする。この小売店さんの気持ちが理解できてこそ、卸売業の営業マン(販売員)が務まるのだ。
「傍」より「自分」優先
社会人になるということは、「他人(ひと)を楽にさせること」、他人(ひと)のために働くことに他ならない。
高校生が電車の「優先席」で胡坐をかきお化粧する、平然と駅のエレベーター(地方のJR駅にも設置されている)を利用する、それは「元気な君達のために設置されているわけではない」ことが理解できない生徒が目立つ。社会人になるということは、「ここから始まるのですよ」、「まず、他人(ひと)のために動く」ことを考えてみて。
いつから日本人に「傍(はた)」への思いやりが失せたのだろうか。
自分さえ良ければいい、自社さえ利益を挙げればいい、護送船団方式で業界が一つに動くことは、あの小泉・竹中時代に否定されたじゃないか。自社生き残りのためには、人件費は最大のコストだ。終身雇用制がいけない、成果主義の時代だ。「力の無いもの」、「会社に貢献しない者はいらない」風潮が定着した。
リーマンショック時、真っ先に「派遣切り」を行い世間の非難を浴びた「大分キャノン」、いわずとしれた経団連会長御手洗氏の子会社だ。派遣切りの功あってか、08年度決算は数千億円の当期利益を計上した模様。
外貨を稼ぐ日本の製造業の実態とは、こんな企業のことをいうのか。
“あいさつ”から始まる
アパレルや流通を希望する高校生には、「接客の10大基本用語」を大声で叫ばせる。
(1)はい
(2)いらっしゃいませ
(3)かしこまりました
(4)おそれいりますが
(5)少々、お待ちください
(6)お待たせ致しました
(7)有難うございます
(8)申し訳ございません
(9)失礼いたしました
(10)またどうぞお越しくださいませ
とにかく、大きな声を出せ!声の“こだま”が自然とお店に賑わいを生み出す。
そして、接客をスムーズに運ぶための心の通った会話が飛び交うのだ。そんな問屋街、商店街であって欲しいと願う。もちろん、築地場内・外のように、あるいはアメ横の喧騒を期待するわけではない。所詮、立つ位置は違うのだから。
以前、ここは問屋街だから「あくまで商談、取引のための場だ」、だから余計なあいさつなど不要だと聞いたわけではない。「小売店のようにはいきませんよ」と後が付く。もっとものことだと、その時は理解した。しかし、これでいいのだろうか、最近、問屋街を歩いていて感じる率直な感想だ。問屋街にも活気が必要なのだ。
問屋街に相応しい彩り
最近の問屋街って元気がないね、なんて、知り合いのデザイナーやファッションに携わる仲間達に言われる。それでいて、ほとんどの道路にはマネキンが立ち並び、ラックが林立し、中には段ボールを積み上げている企業もある。
「一般の方(素人さん)にはお売りしません」は理解できるが、一般の方がラックにぶつかって、歩き辛そうにしていることにも無関心だ。
せめて「ここでお売りはできませんが、この秋はこんな商品が売れていますよ、直ぐ売れてしまいます。寒くなりましたからね」、こんな一言があれば、いっぺんに問屋街のファンになっちゃいそうです。「どこへ行けば買えるの」、「○○の小売店さんに行って下さい」、「ありがとう、直ぐに行ってみるわ」なんて。
こんな一言が、問屋街を明るく楽しく彩る。自社の店舗を綺麗にするだけでなく、街全体のことも考えて欲しい。問屋街では、ファッション雑誌では見られない新鮮さがたまらないわ、この時期にどんな服装をすればいいのか、迷ってたのよ、この問屋さん、いいね、いつ見せていただいても新鮮だわ。
商売の神様直伝の法則
環境が厳しいせいか、いろんな経営の神様や「これで成功しました」的店長がTVで取り上げられる。
その一:品切れを起こさないこと。
その二:掃除を徹底すること。
その三:「あいさつ」に活気のあること。
これに加えて、「いかにお客様を喜ばせる品揃えをするか」、「目先の数字を追わないこと」が続く。
ファッション商品だけに、食品スーパーとは異なり、足の速いブランドものの品切れが致命傷となることはない。とはいえ、今日の気候・気温にマッチした商品(手で触れた感触でお客様には分かる)のサイズ・カラーの欠品はないか。オーナーや店長(チーフ)が、朝礼で販売員に必ず確認すべきことだ。
活気は“こだま”する
(1)おはようございます
(2)こんにちは
(3)有難うございます
(4)御苦労さまです
(5)お先に失礼します
(6)お疲れさまです
(7)お世話になります
この「7つの挨拶」も自然と出るような習慣づくりをしたいですね。どの問屋さんからも、こんな活気ある言葉が店外に迸る。小売店さんも、ちょっと覗いていこうかな?その気にさせる。
知らない人だから、この人は話をしたことが無いわ、どうも好きなタイプじゃなさそう、知らんふりしてしまう、よく来ていただける方だからあいさつしよう、なんて差をつけないことですね。
企業を変える「5S」
基本となるところは、なんと言っても、以下の「整理」・「整頓」・「清潔」・「清掃」、加えて「躾」の「5S」の徹底に尽きる。
この「5S」を目標として、体質を大きく変貌させた事例は数多い。
業界は異なるが、神奈川にあるフィルム原料のリサイクルを手掛けるある企業さん、発展の原動力はデミング賞で審査員を驚かせた「5S」の徹底にあった。それは、創業社長の経営の根幹である母から学んだ「掃除の心」にあるという。
「毎朝、店先を黙々と掃除している若者の姿に来店する顧客は目を細めた。掃除の心が与えた感動である」(「挑戦する独創企業」(浜銀総合研究所編・著より)。