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宿屋四郎兵衛
「ずばり!単刀直言」
(2007.6.20〜2009.5.20)
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No. 13 |
老舗ビジネスの秘訣は原理・原則にあり
老舗ビジネスの迫力
前号で問屋街の老舗企業について触れたところ、ある方から最近の専門店の企業姿勢ついてのアドバイスをいただいた。
老舗と言われるある専門店、最近のことだけに直接海外に出かけ、その地のメーカーから商品の仕入れをされている。自社で検品をして売場に陳列、最後まで徹底して売り切る。小売価格は自社で付ける。当たり前のことを極めて当たり前に遂行されていく。そこに老舗としての凄さがあると評価される。
一方、セレクトショップと持て囃される最近の品揃え店、売れ始めると必ずオリジナル商品作りに手を出す。企業としての安定成長を狙って、当然のことながら利幅の確保を優先させるのだ。次第に、店舗数や売上が増えてくると、自社に有利な取引条件を仕入先に持ちかけるようになる。要は、仕入先に無理を言うようになるという。
そうなると、専門店としての独自性はなくなってしまい、ショップの特徴も強みも失われてしまう。でも、会社を発展させていくためには止むを得ないこと、当然のことだと周りも見てしまうようだ。
どちらの手法が正しいのか、多分一概には言い切れない。しかし、厳しい局面を迎えた時、この差は大きく業績に表われるようになる。
ビジネス手法の伝統
老舗商法には、取引先に対しての返品や値引き、商品のシーズン末の交換など仕入先に負担を強いる手法は存在しない。すべて買取りだ。これは、一部の専門店だけではなく、老舗と言われる地方小売店、衣料チェーン等にも共通する原理・原則の手法である。
激しい流通環境の変化の中で、結果的に生き残ってきた小売店に共通する特徴でもある。
大手有力チェーン専門店の相次ぐ倒産に揺れたきもの業界においても、今なお健在の小売店の多くは、買取り商法を原則としていると見られる。安易な委託取引や消化ビジネスを取り入れた小売店は、一時的に好調を持続したものの、結局は長続きすることはなかったのである。
老舗といわれる企業は、商売を安易に考えず、原理・原則に則ったビジネス手法をとることで、結果的には勝ちパターンとなっているのだ。市場の変化が激しいだけに、商売が堅い、あるいは融通が利かないと陰口を叩かれながらも商売の原理・原則にこだわる姿勢が生き残りに繋がっている。
買取りビジネスに徹することが企業を急速に成長させる上での足かせになった時代もあったろうが、長い目で見た場合、このことが強みに転化しているのだ。
小売価格はアパレル任せでいいのか(上代設定できない専門店)
新興アパレルメーカーの社長曰く、
「専門店の売上が低迷を続けるのは当然ですよ。小売店主は、とにかくアパレルメーカーや問屋の商品を唯々諾々と受け入れている。売れ筋を追うというより、大手アパレルに任しておけば大丈夫という姿勢なんだ」「何が売れているのかなんて考えていないのかなぁ」「第一、小売価格もアパレル任せで、いくらで売ったらいいのか、それが判らないのかなぁ」「アパレルメーカーの言う通りやっていれば間違いないと思っているようだ」
「これではお客も離れていきますよ」「せっかく売れている商品を提案しても、これはウチのコンセプトじゃないよ!こんなの着るお客はウチには来ないんだ」「能書き、売れない理由はいくらでも話すが、よし!この商品をいくらで売って見よう!との気合が感じられませんね。これでは、モールやSCのショップに勝てませんよ」と語気を強める。
「同じ商品でも、他店とは異なる小売価格をしっかり提示できる力をつけるべきだね。商品を見る目が必要だね。それが小売店本来のオリジナルというものじゃないのか」
確かに、買取りビジネスにこだわる小売店ではアパレルメーカー任せにはしない。アパレルメーカー等との太い仕入パイプは維持しつつ自社のお客に合った小売価格で勝負していく。シーズン末のマークダウン価格も自社の売行き状況で判断するし、時期の決定も自店の意のままだ。
手法は老舗風土で伝わる
専門店における老舗力は、商品を買取る眼力である。これは、老舗ならではのスタイルで継承されていく。
最近の風潮のように小売価格は、仕入価格の倍でなければならない。そうしないと自店のコストが吸収できないので機械的に値付けする、あるいはアパレルメーカーや問屋との交渉でアパレル提示の小売価格の5掛けで買えばいいのだ、では、社員の眼力は磨かれない。
仕入れた商品の小売価格を設定する作業は、普通の社員教育では身に付くものではない。まして、一度委託取引や消化取引を経験してしまうと、なかなか買取りビジネスの原点返りは不可能だ。
また、アパレルメーカー側もこの点を巧みに突いてくる。「しばらく置いてみてくださいよ、必ず売れますよ!もし残るようなら何時でも引き取りますから」悪魔の囁きである。
老舗には、この誘惑を徹底的に排除する風土が存在するものだ。改まっての社員教育でもなく、自然と見よう見まねで先輩達の背中を見て育っていく。老舗の強みと言えるだろうか。
社員の心を掴むビジョン
問屋業や小売業にとって最も重要なものは、人材だ。
一番は「オリジナル商品の開発だ」「付加価値の高い商品だ」と誰もが言い、また「いや、やはり資金だ。資金無しには事業は成り立たない」とも言う。挙げ出すときりがない。教科書にもそう書いてある。
しかし、この卸・小売の世界で人材をおいて他に大事なものは一つとして存在しない。盛衰は、社員次第なのだ。
その社員の心を掴むもの、それはトップ、経営者のビジョンにある。ビジョンを通して、社員が「この会社でキャリアを積めば3年後、5年後にはこうなれる」という自分の夢が描けるかどうかがポイントとなる。
老舗企業にはその可能性が高いというものの新興企業でも条件は同じだ。参加した社員が経営者とは別に、自分の夢やビジョン、ゴールを描けることで会社の将来が決まってくると言えるだろう。
それだけにトップ、経営者の使命は重大だ。とくに老舗経営者に求められる資質は半端ではないはずだ。
不振を極めた秋冬商戦
昨年の後半、秋冬商戦は不振を極めた。そして、この春物商戦もほとんど吹っ飛んだ、といってもいい状況だ。
景気は明らかに下り坂を迎えている。何より政治、経済の混乱がビジネスの先行きを暗示している。この流れは一過性のものとはいえない、ほぼ恒久的な傾向と言えるだろう。
老舗ビジネスに注目する理由はここにもある。原理・原則にこだわるビジネス手法こそ現代を勝ち抜く秘訣なのだ。
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東京問屋連盟:問屋連盟通信:2008/4/1掲載 |
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