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宿屋四郎兵衛
「ずばり!単刀直言」
(2007.6.20〜2009.5.20)
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No. 17 |
ネットは問屋街の現場を変える。
モバイル文化の出現
残念ながら、今になってもパソコンやケータイでファッションが売れるなんて、どうしても違和感が残る。信じられないのだ。現実に「売れている」、しかも「その数字はけた違いに伸びている」と聞いてもなお半信半疑だ。
とは言え、モバイル通販が急速に存在感を強めていることは否定できない段階にきている。
その主役は、やっぱり20代から30代のモバイルを当然のツールとして使いこなす世代だろう。中には仕事が忙しく、とても買い物に行けないOLが、午前零時過ぎにパソコンで買い物をする例が多いと聞くことは多い。
また、社会問題化しつつある小、中学生からケータイ依存度が圧倒的に高いと思われる高校生に至るまで、ネット通販はその領域を拡大しつつある。
当然のことながら、リタイアした団塊世代のケータイ使用率も高い。一時話題となった高齢者向け「パソコン教室」も、今や閑古鳥が鳴くくらいパソコンの所有率も高く、かつハード面の進歩で初心者も簡単に操作できる時代になってしまった。
モバイルは、もはや若者特有の文化ではなく、いわゆる後期高齢者に至るまで、すべての消費者共通の購買手段として活用される段階に入っているのである。また、購買に至らずとも、諸情報の有力な入手手段に進化したのだ。
コミュニケーション・ツールとしてのファッション
すでに、ケータイでゲームをし、小説を読み、音楽を聴くことは若い世代だけでなく、すべての世代を通して、一般化し、平常化している。
まだまだ丸善や紀伊国屋に行かないと本の買えない人(本屋の楽しみが捨てられない世代)も多いのだが、忙しいビジネスマンならずとも、「アマゾンが便利」と言い切る。
ましてケータイ依存率の高い若いギャルやOLにとってはケータイ画面から「雑誌モデルの着ている服だ」、また「あなた、かわいい服着てるわね」から、「私も欲しい」とケータイでの買い物につながっていく。ファッションをキーワードにした“旬”な情報によって仲間意識がさらに深まるという。
ファッション販売にとって不可欠と思われてきた「風合い」や「シルエット感」、「素材感」など、ここではどうもお構い無しのようだ。それだけファッション商品の品質に安定感があり、ケータイで見た感じと実物に大差がないということでもあろう。
「物販という発想でケータイを使うとつまらない」と話すギャル系ブランドの社長も現れている。
とはいえ、「ファッションは、コミュニケーション・ツールだ」と言われると、今まで抱いていたモバイル購買に対する違和感もなんとなく吹っ切れてくるではないか。
衝動買いの危うさ
一時、話題沸騰した「東京ガールズコレクション」、来場者がモデルの着用する商品を争って購入する。すべて、リアルタイムだ。ショーの演出、モデル、広告などすべての仕組みが付加価値となって購買意欲を高めると報じられている。3月15日の当日だけで3,500万円を売り上げたという記事だ(繊研新聞より)。
コレクションと言いながら、服を通しての情報やコミュニケーション手段を提供しているとの意識が強く、「服を売っているとの感覚はない」のかも知れない。そこに服を売るという怖さは微塵も感じられないからだ。
また、商品に群がり、購入するショーの参加者も、案外服を買っているという意識は極めて希薄なのではないか、と思われる。ここに、このコレクションが一過性のイベントとして終わるのではないか、という危惧にもつながっていく。
衝動買いは、いずれ反省期を迎えるに至ることが多いのも事実だからだ。
リアルタイムでファッションは動く
ファッションビジネスの多くは、製造業であろうと卸売業であろうと、またどの小売業も、SPA業態であろうと、すべて自社の利益を守り、拡大することに全精力を傾けてきた。
「消費者あってこそ」「消費者第一主義」と言いながらも、どの企業も内実は消費者のことより自社の利害を先行させてきた。問屋街の各社といえども決して例外ではないのだ。会社があってこその消費者であり、会社なくして高度成熟社会など存在するわけがない。まず、会社の基盤が安定しなければならない。このことは、現福田政権の「骨太の方針」にも通じる経済優先の思想そのものである。
この考え方は、決して誤ってはいないだろう。
しかし、そこには本来の主役である消費者が置き去りにされているのではないか、との懸念が囁かれてはきた。今、福田政権下で検討中とされる「消費者庁」構想もその一つではないかと思われる。
こういった企業優先の考えに対しての消費者の強烈なしっぺ返し、それが「ネット消費」「モバイル消費」の底流にあるのではないか。消費者は、企業の利害、資本主義的手法・理屈などお構い無しのリアルイタイム消費を望んでいるのだ。「欲しいモノは今すぐ手に入れたい」のだ。
ものいう消費者
アパレル商品の小売店頭売り上げに急ブレーキがかかっている。従来の手法でいけば、店頭に多くの販売員を配置する、バイヤーにも店頭販売を義務付ける、店サイドの意向を取り入れた商品仕入れを強化する、とにかく消費者の好みを早急に仕入れに生かせる仕組みを作ろう、となる。
しかし、どうも従来とは異なる次元で時代は進行しているようだ。
従来の手法では、問題は解決せず、益々混迷を深めるばかりではないか。時流を読めない企業は市場から早晩リタイアを迫られる局面を迎えることが懸念される。
テイスト、仲間意識などを含めて、今まで考えられなかったようなグループが生まれているようだ。そして、このグループが新しい潮流を生みだしていると見なければなるまい。
ネットでは、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などが、無数の情報を発信している。ネットは、言うまでもなく時空を超えるもの。海外をも巻き込む巨大な消費者の渦が、新しいビジネスチャンスを創出するとともに、旧来の手法を拒絶していく。
スピード溢れる組織作り
古いビジネスモデルと言われてきた現金卸の手法が、改めて注目される時代を迎えている。
「小売店の店頭販売に引き付けて、欲しいものを必要な数量だけ仕入れられる現金卸の仕組み」を、どう今日的体制で、スピード豊かに顧客である小売店に取り込めることができるか。問屋街の使命として、現場の中で育て上げていかなければなるまい。
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東京問屋連盟:問屋連盟通信:2008/6/1掲載 |
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