取引正常化は問屋街の使命
違反被疑事件1966件
公正取引委員会08年度上半期「下請法」等の運用状況によると、下請法違反容疑事件は1966件、「勧告」を受けた事例が6件(うち5件が下請代金の減額事件)、「警告」は1799件とある。
下請代金減額事件では、親事業者27社が下請事業者589人に対して、総額23億5446万円を返還し、下請代金支払遅延事件では、親事業者19社が下請事業者949人に対して、総額1億9304万円の遅延利息を支払ったと報じられている。
「下請法」、正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」だ。法律の目的は、親事業者と下請事業者の間の「適正な取引の実現」と「下請事業者の利益の保護」にある。
制定されたのは、昭和31年、以来数度の改正が重ねられ、直近は平成17年7月の改正によって同法が運用されている。
成長力底上げ戦略
平成19年2月、政府において「成長力底上げ戦略」構想が取りまとめられ、経済財政諮問会議に報告了承された。
この「成長力底上げ戦略」は、成長戦略の一環として、経済成長を下支えする人材能力、就労機会、中小企業の3つの基盤の向上を図ることが目的とされた。この3本柱の一つ「中小企業底上げ戦略」については、下請適正取引等を推進することが中核である。
下請かけこみ寺の設置
経済産業省は、取引適正化実施体制のため(財)全国中小企業取引振興協会(全取協)に「下請かけこみ寺本部」を設置し、平成20年4月から全国47都道府県にて、下請適正取引推進のための「ガイドライン」普及啓発活動を開始したのである。
主な事業は、
(1) 相談業務
(2) ADR(裁判外紛争解決手続)業務
(3) ガイドライン普及啓発業務
の3つから成っている。
下請法違反事件事例
「下請法といわれても、どういうこと?」との戸惑いもあり、特に繊維業の場合、多くの下請業者との取引も多いだけに問屋街といえども、この機会に同法について理解を深めておく必要があると考えられる。
下請法に違反する事項とはどんなことが該当するのか、いくつかその代表的事例を紹介する。
- 書面等の交付義務
繊維卸売業のA社は、呉服の加工・仕立てを下請業者に委託している。A社の発注内容は常に同じであり、また単価・支払条件をあらかじめ話し合いで決めていることから、発注は電話で行っており、発注時に書面で発注内容等の必要事項を記載した書面を下請業者に交付していない。
★本件では、A社に対して発注の都度、発注内容を記載した書面を下請業者に交付するよう「警告」した。
- 支払遅延の禁止
繊維卸業B社は、繊維製品の染色及び縫製等を下請業者に委託している。
B社は、25日〆、翌25日支払(手形払で90日)と決めているのに支払わず、手形満期日となる90日後に現金で支払った。また、業者からの請求書が遅れたことを理由に、さらに60日後の支払いとした。
★本件では、B社に対して、納品締切後30日以内で、かつできる限り短い期間内に代金を支払うよう、また請求書の提出が遅れた場合であっても支払条件通り支払うように「警告」した。
- 書類保存義務・書面交付義務
繊維製造業C社は繊維製品加工を委託している。
C社は、下請業者の給付の内容等必要事項を記載した書面を2年間保存していなかった。
また、発注書面に、必要事項の納期、下請代金額、支払期日及び支払方法を記載していなかった。
★本件では、C社に対して下請事業者の給付の内容等必要事項を記載した書面を2年間保存するよう、また、発注の都度、必要事項を記載した発注書面を下請事業者に交付するよう「警告」した。
- 下請代金の減額の禁止、書面等の交付義務
繊維卸業D社は、繊維製品製造を委託している。
D社は「歩引き」と称して下請代金から一定額を差し引いて支払っていた。
また発注時に交付すべき書面に支払期日・支払方法を記載していなかった。
★本件に対しては、D社に対して、下請代金から減じた額(約180万円)を速やかに支払うよう、また、発注の都度、必要事項を記載した書面を下請業者に交付するよう「警告」した。
- 割引困難な手形交付の禁止
繊維工業E社は、繊維製品の製織加工等を委託している。
E社は、下請代金の支払いについて、手形期間が90日を超える120日の手形を交付していた(手形期間が、繊維製品は90日、それ以外の業種は120日を超える長期の手形は割引困難な手形と解される)
★本件はE社に対して繊維製品の取引については手形期間を90日以内に短縮するよう「警告」した。
- 製品の返品
衣料品等の製造を委託しているF社は、自己の店舗での販売予定期間が経過し、売れ残ったことを理由に下請業者に商品を引き取らせた。
★本件では、F社に対して、引き取らせた商品代金(約1900万円)を再び引き取るように「勧告」した。
- 製品の受領拒否
寝具類の製造を委託しているH社は、発注後の販売及び出荷状況の変動を理由として、あらかじめ定めた納期に商品を引き取らなかった。
★本件は、H社に対して、発注書面の納期通りに商品を引き取るように「警告」した。
- 買いたたき
繊維卸業I社は、当初予定発注数量に達しないにも関わらず、下請業者と協議することなく当初発注数量に基づく単価に据え置いた。
★本件においては、I社に対して、見積もり時に予定していた数量を下回る場合は、再度下請業者と協議をして単価を決めるように「警告」した。
- 有償支給原材料等の対価の早期決済
アパレル製造業Z社は、下請事業者に有償で原材料を支給しているが、当該原材料を用いた製品の納品より早い時期に支払うべき下請代金の額から当該原材料の対価を控除していた。
- 不当な経済上の利益の提供要請
婦人服アパレルW社は、下請事業者に直接利益にならないことが明らかであるにもかかわらず、自社製品のラベル貼り作業を強制していた。
代表的な下請法違反事例を挙げたが、どちらかと言えば「親事業者」に当たる問屋街・商社には、守らなければならない『4つの義務』がある。
(1) 発注の際は書面を作成し、下請事業者に渡す義務
(2) 支払期日を決め記載する義務
(3) 取引完了後も、2年間保存の義務
(4) 支払が遅れた場合、遅延利息(年率14.6)の記載義務
詳細、疑問点は、連盟経営相談室に連絡ください。
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