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宿屋四郎兵衛
「ずばり!単刀直言」
(2007.6.20〜2009.5.20)
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No. 30 |
先の読めない時代は現金卸が強い
「強い円」の時代
日本人は不思議な国民で、「円安」になることをやたらと歓迎する。経済界の円安大合唱を「正当だ」と長年に渡って支持してきた、というより信じきってきたと言っていい。
自国の通貨「円」が安くなるということは、すなわち日本の国際上の地位が低下していくことを意味しているにも関わらず円安を歓迎する。その意味では、世界の大勢から見ると、日本の国民性とは他国民に対して大変へりくだる、謙譲の国であると言えるのかも知れない。
なぜ日本人が「円安」を歓迎するのかと言えば、それは言うまでもなく、明治期以来の「輸出立国」という、今や幻の国是のためであるというしかない。日本という国は、原材料を持たない国であるという一種の劣等感から、ドイツやイタリアと手を結び、第2次世界大戦を惹起させた。多くの国民に残る「日本は原材料を持たない国」であるという思いは、世界で唯一の原爆被爆国であるとの認識をも上回っているように感じられる。
この思い込みは1985年の「プラザ合意」で、日本の国際社会のあり様が世界から否定されるまで続いた。すなわち、この先進国サミットG5の「プラザ合意」によって、輸出大国日本が否定され、円高誘導を期待されるに至るのである。
空前のバブルへの道
プラザ合意の目的は、米国の輸出力を回復させ、米国経済の赤字幅を減少させることにあったが、このための各国の協調介入で、1ドル=240円が、85年末には200円割れとなり、88年初には120円まで円高が進んだ。
これをきっかけに資金が日本に戻り始め、80年代後半より、今なお記憶に新しいところの空前のバブル時代を日本は迎えることとなる。
この合意を境として「輸出立国」を国是としてきた日本国は、世界からは、輸出中心ではなく「内需拡大」による経済の成長・拡大を期待されるようになった。
米国や後進国・地域の輸出を率先して受け入れることも期待され、従来のような輸出による経済の黒字化が否定されるようになる。原材料を後進国から輸入し、それを加工・製品化して、特に対米輸出で経済を運営していくことを抑えることが求められるようになったのである。
雇用体系の変化
しかし、その後も日本の輸出産業は衰えることを知らず、ますます勢いを増すこととなる。
世界に稀有な国民性、さらに製造業の持つノウハウは一層の経営・業務面での合理化・効率化を進展させることとなり、円高ドル安のハードルを楽々と乗り越えていく。
周知の通り、一時は、1ドル=80円、さらにそれ以下でも輸出が可能な製造工程、特にロボットの活躍が本格化してくる。衰微すると見られた中小企業の技術力も大企業に後れをとることなく、「多能工」の育成でその実力を高めていく。
しかし、このような国内の懸命な努力にも関わらず、円高最大の問題点は製造拠点の海外移転を加速させてしまったことに尽きる。そして、この生産拠点の海外移転が、日本の雇用体系を大きく揺るがすことになる。
終身雇用・年功序列制度の終焉であり、新たな派遣社員制度の導入である。経営効率化の名の下に、過去の経験則が通用しなくなり、日本固有の雇用体制はもろくも崩れ去っていく。
内需拡大政策の停滞
プラザ合意による円高誘導での内需拡大政策は、時の政権の政策誘導にもめげず、経済界の輸出主導による経済運営に依存したまま今日まで続いてきた。
政治の力は、日本経済の根幹を変えることができず、結局、海外への生産拠点シフト推進という歪な(というより当然の経済行動により)経済構造を作り上げてしまったと言えるかもしれない。
国是となるべき内需拡大は、膨大な国費を費消した道路整備を軸とする建築・土木事業が主体となって地方経済を潤し、そして数年後には、地方経済を結果として疲弊させていくことになる。大規模な財政出動による地方助成金が、結果地方経済を崩壊させていく。
グローバリゼーション
当初の小泉政権の狙いは当たった。小さな政府、三位一体の政治、赤字国債の発行停止など、無制限な財政出動を廃し、「救済から自助努力へ」がスローガンとなる。
規制緩和を実現しなければ、日本に残るはずの生産性の高い企業が海外に移ってしまい、国内には規制を必要とする産業のみが残ってしまう。そこで政府は、減損会計を始めとした米国会計制度をスタンダードとして、次々と中堅・弱小企業に市場からのリタイアを迫る。
景気回復のためには、まず輸出競争力のある企業に力を付けさせる。輸出先行で景気が回復すれば、それに連なる中小・零細企業群も自然とその余禄に与れるはずだ。幸い景気はわずか2%台とはいえ回復基調が、あの「いざなぎ」超えを記録している。内需は拡大するはずだ。
無力に終わった政治
確かに、景気回復は政府の数字上は達成された。
だが、中小・零細、地方経済、さらには好調企業といえども社員の雇用安定(正社員減、フリーター、派遣社員増加等)や給料アップは実現しなかった。好調輸出企業やいかがわしきIT企業群のトップに望外の報酬が支払われただけに終わった。格差は拡大したのである。
また、付録として社会不安や新手の社会問題を発生させた。
消費者が立ち上がる
ブッシュ政権の失政により米国の、強いドルの時代は終わった。オバマ政権もすぐには米国の威信回復は不可能と考えられる。あまりにも課題が多すぎるからだ。
再び、円高の時代が来た。今度こそ、日本人はこの機会を見逃してはなるまい。消費者の立場で考えてみよう。円が強いということは、「円で世界の多くのものが安く買える」ということだ。ついこの前まで、120円で買っていた商品が、今95円で買えるのだ。
過去は、生産者の立場で「円安」を支持してきた。このことが円の値打ちを引き下げ、結果として日本の労働賃金を停滞、もしくは引き下げ、あるいは残業手当を未払いにされてきたことに気がついた。これでは、日本人の購買力が上がるはずがない。
政府の補助金で消費意欲が押さえつけられてきたと言っていい。
「自助努力」の時代である。世界同時不況の中での円高傾向は、間違いなく円の実力が相応に世界から評価されてきたことを示している。「強い円」が消費を喚起し、地方経済を潤し、地方商店街を復活させる契機になることが予測される。
先の読めない時代こそ現金卸の全盛時代回復を可能とする。
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東京問屋連盟:問屋連盟通信:2008/12/20掲載 |
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