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宿屋四郎兵衛
「ずばり!単刀直言」
(2007.6.20〜2009.5.20)
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No. 33 |
オバマ登場は企業を変える。
新リーダーの時代
アメリカに新しい第44代大統領が就任した。その就任演説の中に散りばめられた言葉一つ一つに現在の世界が直面しているあらゆる課題が提起され、国民とともに時間をかけて解決していこうとする決意が見て取れる。
この就任演説を読み返せば読み返すほど、国とは何か、世界とは、また企業とは、あるいはあらゆる組織の運営は如何にあらねばならないかを考えさせられる。演説の多くのフレーズの冒頭は必ず「私たち」(朝日新聞による日本語訳)から始まっている。「私が、成し遂げる」とは、決して明言していない。
世界最強の米国大統領といえども決してオールマイティであるはずがない、との新しいリーダー像を示している。ここにブッシュ前大統領との大きな違いがあるのではないか。
そして何より歴史の重みを十分に理解し、またそこから学びたいとの思いが溢れているように思われてならない。「アーリントン国立墓地に眠る戦死した英雄たちの、時代を超えたささやきと同じように、彼らには、私たちに語りたいことがあるはずだ」と語る。
これらの言葉には、先人に対する深い敬愛の思いが滲んでいる。先人の期待に応えて、いま一歩を踏み出す時なのだ。
先人の努力に敬意を
「(前略)先人たちは、自らの力は慎重に使うことで増大し、自らの安全は、大義の正しさ、模範を示す力、謙虚さと自制心から生まれると知っていた。
私たちはその遺産の継承者だ。いま一度こうした原理に導かれることにより、私たちはより厳しい努力、つまり、より強固な国際的協力と理解を必要とする新たな脅威にも立ち向かうことができる。(一部略)
私たちは、私たちの生き方を曲げることはなく、それを守ることに迷いもしない」と断言する。
これは、確かに、一米国の問題ではなく、どのような組織、企業にもその時代、時代の危機に直面し、乗り越えてきた先人の血と汗があってこそ今日の姿が存在する。先人の努力、工夫に敬意を払わずして次代は訪れないのだ。
オバマ新大統領は、敬愛して止まないエイブラハム・リンカーンの故事にすべて倣っているようだ。南北戦争から米国を救い、統一したリンカーンの原点に立ち返ることによって、混迷の世界を救いたいと念じているのであろう。
先人が残した功績
(協)東京問屋連盟刊行の『問屋街の歴史と40年のあゆみ』(平成元年)
を紐解くとき、常に一種の感懐を覚える。連盟傘下企業の構成メンバーの変遷である。
この当時の商社名のいくつかは、すでにこの街からなくなっていることが分かる。関東大震災や東京大空襲の廃墟の中から問屋街の皆さんは、敢然と立ち上がっていく。当時のリーダー的企業といえども、あるいは、高業績を誇った商社も時代の変遷とともにいつかは衰微せざるを得ない時を迎える。これが歴史というものであろう。
徐々に忍び寄るお客様(消費者)の成熟化の中で、問屋街がいくら努力を重ねても如何ともし難い環境の変化、流通構造そのものの流れがある。思わぬところから、取扱商品に大きな消費のうねりが起こり得ることもあろう。
だが、今日まで先人たちは必死でこの街を守り、工夫を加え、育ててきたことに対して、いま存在する商社の皆さんは感謝しなければならないはずだ。と同時に、構成する商社の名前が変わろうとも、この街の存在を次代に伝えていく義務があるのである。
先人に対する敬意は、行動で現わさなければなるまい。
企業経営は苛烈一色
政権維持に汲々とする自公政権に国民の多くは、これ以上の敬意を払うことはないだろう。
公金で運営される国会のノンビリさに比して、国内大手企業の打つ手は、迅速、かつ苛烈そのものだ。特に、日本を代表する輸出型企業トヨタやソニー、パナソニック等の峻烈さは、矜持などと称しているレベルにはない。トップの交代はもちろん、正規社員のリストラを含む大規模な危機意識だ。
消費の落ち込みが世界的規模であり、V字型回復などあり得ないことを予測した「底の底」までを考え抜いた戦略であろう。
白川日銀総裁は、22日の記者会見で「大企業が先々の資金繰りに不安を持つことは、98年の金融危機後しばらくなかった。それが突然、手元流動性が枯渇するのではないかという恐怖に襲われた」という(朝日新聞)。
資金繰り不安への応急策のために、日銀はCPの買い切り、年度末にかけて巨額の償還が迫る社債も買い切る方向だと報じている。
09年度は戦後最悪か
日銀の発表する実質国内総生産(GDP)の成長率見通しは、08年度マイナス1.8%、09年度マイナス2.0%と大幅に下方修正している。
だが、政府や日銀の示す景気指標と実際の企業の現場で感じる景気数値とはあまりにもかけ離れたものとなっていないか。グローバリゼーションの進展した経済下で、世界企業を相手に直接競合する企業の実感と、旧来型の算出数字で示す政府発表に大きな開きが生じているのが実情認識の乖離だ
旧態依然たる経済政策で09年度以降を乗り越え、国民の付託に応えるだけの力を今の政府に期待することはできない。また、その認識を彼らが持っているとも信じ難い。企業自らの努力・工夫で乗り切るべき時なのだ。
体質強化の好機到来
中小企業にとって大切なことは、「百年に一度」などの妄言に騙される必要はない。じっくりと体力を蓄える時である。無理をせず、身の丈に合った商売を心がけることが重要なのだ。
小売店には、こんな時に慌てて大判のチラシを配布し、あるいは催事を増やし、DMを必要以上に発送することも無意味だと進言している。経費を一層引き締め、社員のモラールを高める目標をしっかり、お互いに確認すべき時なのだ。
そのことを立場は違え、オバマは教えている。
目標とは、イコール売上と考える店主が依然多い。まず、足元から、お客様に何ができるか考える。なおざりにされている「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)+「2S」(さわやか、スマイル)の徹底など、やるべきことは無限にある。
社内システムの見直しも、こんな機会でなければできないものだ。若いバイヤーに仕入れを任せ、新しい商品、新しい業態店を開発する好機でもある(投資はせずに)。
従来の手法に何か別の手法を組み合わせてみる、過去のデータを改めてじっくり確認してみる。それを元にして、全社員でディスカッションする。思わぬアイディアが会社を変えていくものだ。
人類の歴史は、こういった苦難克服の教科書なのだ。 |
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2009/2/1掲載 |
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