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宿屋四郎兵衛
「ずばり!単刀直言」
(2007.6.20〜2009.5.20)
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No. 35 |
営業活性化こそ資金の源だ
「未曾有」の経済変動
もはや古くて取り上げられることもなくなったが、日本を代表する政治家たる麻生総理が、なぜ「未曾有」を読み間違えたのか。間違えたと言うより、元々ご自身は「みぞうゆう」と読み慣わしてきたのに相違ないと考えられる。ご本人は、未だに間違いであったとは思っていない節がある。
今回の中川金融・財政大臣の「酩酊記者会見」も、麻生氏の感覚では「それほどのことではない」と受け止めた気がする。むしろ、「面白いじゃないか」くらいの感覚であったのかも知れない。まさか、全世界の記者達の集中砲火を浴びるとは思わなかったようだ。
第1次世界大戦後のヴェルサイユ講和会議で日本の全権大使西園寺公望公が、戦勝国にも関わらず、ほとんど日本の立場を黙して語らず、欧米諸国を驚かせた故事を思い出すほどの出来事ではある。欧米人にとって、西園寺公の姿勢は日本人の持つ「奥ゆかしさ」とともに、その秘めたる「野望」「脅威」に一抹の不安を感じさせることとなった。
「百年に一度」の有事に際しての政治家の国家観を見る上で、戦前、戦後の政治家の両者の対比は誠に鮮烈であり、どちらが国民の負託に耐えられるものであるかをよく見極めたいものだ。
「景気回復」優先政策
ご存じの通り、麻生氏が政権にしがみつく理由は、「百年に一度」の経済大乱を乗り切るためであることが「大義」ではあるが、明らかに真剣さに欠けること甚だしい。
不況に喘ぐ国民からすれば、もう少し真面目にやれないか、との思いが政権への支持率に表われている。
そのことは、側近中の側近中川元大臣の姿勢にも明確に現われてしまったと言えるだろうし、盟友の重大な過失に対しても、首相はその責任を問うことも無く、寛大な処置での乗り切りを策した。
何事にも「全くぶれない」政策を遂行しているつもりの姿勢が、「奇人・変人」小泉純一郎元首相を激怒させている。
しかし、本当は有権者である国民自身が、麻生氏の「不真面目」とも取れる「百年に一度」の経済危機対策に異を唱えなくてはならないのではないか。
麻生氏というより自公政権の考える「景気回復」策なるものが、本当に現時点の国難とも言うべき経済危機を救うことができるのか。衆議院議員の解散、総選挙を前にして考えなくてはなるまい。
日本企業の対応の早さ
政治のモタモタに反して、日本の企業の対応は素早い。
日本のGDPは、08年10〜12月期のマイナスが年率12.7%にも達した。今回の金融恐慌の震源たる米国が3.8%減、欧州(ユーロ圏)5.7%減と比べても、その落ち込みは強烈だ。
日本の成長の伸びが輸出に支えられたものであり、かつ、すべての通貨に対する大幅な円高も加わったことが、その原因と考えられる。世界的に需要が急減したために、日本の輸出が止まり、企業の採算は一斉に赤字に転じてしまったのだ。
ファンドなどの外資も引き上げ、株価の大幅下落が業績悪化に拍車をかける結果となったのだ。
しかし、日本の企業の対応は早い。超優良企業による派遣切りだの、内定取消しだの、さらには正社員の希望退職募集だのと、政治が国会で右往左往しているのを尻目に、事の是非はともかくとして、早くも5月には増産に踏み切る企業も出てくると報じられている。
まだ、生産水準は低く、景気底入れの可能性は少ないとはいえ、企業の事業に対する執念は並ではない。
自動車、デジタル家電など、激しい痛みに耐えて在庫削減を図り、企業構造そのものを見直していく姿勢にはただならない経営者の迫力が迸っている。企業経営の在り方というものを、目の当たりにする思いだ。
資金繰りへの対応
公的資金の注入を期待できる大企業と異なり、この不況下、中小零細企業の資金繰りは容易ではない。
現在、全国の商工会議所や商工会が、経営改善普及事業を行っていることはご存知の方も多かろう。経営指導員を配し、小規模事業の経営相談にも応じている。その過程で、政策投資公庫への無担保保証の融資斡旋を行っているのだ。
この融資、一般の融資より事故率は低い。理由は、経営相談による信頼関係が担保となるからだ。単なる目先の資金繰りのためだけであれば、その場は乗り切れても、次のハードルは越えられない。ばかりか、前の融資分の返済が、新たな重荷となってしまう。
目先に追われた融資が、マイナスのスパイラルに繋がることは政府系であろうと民間金融機関であろうと変わりはない。
山場を迎える金融問題
雇用調整、企業倒産は、これからが本番だとの見方が強い。それだけに政府に対してのセーフティネットへの期待感は強くなる。
政府が、昨10月末に発表した新総合経済対策で中小企業向けの信用保証枠や緊急融資枠を拡大し、計30兆円の規模としたことは周知の通りである。また、貸し渋り110番などの措置も講じている。
しかし、全体の政策対応が遅過ぎ、真剣に中小企業を支援しようとの強いメッセージは、相変わらず伝わってこない。とりあえず頼りになるのは政府系の金融機関の融資だが、当然ながら、これには限度がある。
何回も融資を受けるわけにはいかないし、民間は公的保証があるとはいえ、不良債権化を避けるためには消極的にならざるを得ない。
また、借り手にとって最大の問題は「借りたものは、返さないといけない」という当たり前の論理である。返せる見込みが付かない限り、安易に借りることは事業の破綻、あるいは放棄に繋がってしまうからだ。
まず足元を強化せよ
事業に資金を要することは自明の理である、が、決して安易に借りてはいけない。
そんなことは、良く分かっているつもりでも「藁にでも縋りつきたい」心境になることもある。目の前が真っ暗になることだってあるはずだ。だが、今一度考えてみよう。
すべて考えられることは「やり尽くした」ようでも、まだまだ「やること」はあるのだ。経費は絞りに絞ったつもりでも、必ず甘さがどこかに残っているものだ。他人に頼る気持ちが少しでもあることは、まだ事業への未練が残っているのだ。可能性はあるのだと考えたい。
徹底して自社の拠って立つ基盤を見直し、時代に合った態勢を作り上げていくことだ。このことは、企業規模に違いこそあれ、すでに体制転換を図っている輸出型大企業の自動車やデジタル家電業界、あるいは、次々とニッチ商品を生み出す中小企業を見習うべきではないか。 |
東京問屋連盟:問屋連盟通信:2009/3/1掲載 |
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