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宿屋四郎兵衛
「ずばり!単刀直言」
(2007.6.20〜2009.5.20)
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No. 38 |
「貴方はアクセルを踏むか?ブレーキを踏むか?」
企業存続の危機
百年に一度あるかないかの危機を迎えて、世界中のいろんな企業・組織のリーダーは、大小を問わず「アクセルを踏むべきか」、それとも「ブレーキを踏むべきか」に苦慮しているはずだ。
幸い、この不況下にも関わらず、まさに小売業界で独り勝ちの感のあるファーストリティリングでさえ、さらに「アクセルを踏むかどうか」迷っているはずだ。企業目標が売上1兆円達成にあるわけだから、さらにアクセルを踏み続ける絶好の機会ではある。
4月9日発表の09年2月期中間決算は、売上高前年同期比13%増の3574億円、営業利益は28.7%増の698億円で、いずれも過去最高を更新している。核であるユニクロが叩き出した数字だ。
保温性のある肌着「ヒートテック」の大ヒットが貢献したと報じられている。
09年8月通期の業績予想は、売上高6600億円、営業利益1010億円と、いずれも1月時点での予想を大きく上回っている。店舗戦略では、アジアでの年間新規出店目標100店舗を中国・香港、韓国で達成する予定という。
高業績は危機の裏返し
ユニクロは、国内では今秋から大都市の売場を大型化させる。格安店「ジーユー」も、990円ジーンズが絶好調という。消費者の低価格志向は衰えることを知らず、まだまだ伸びる可能性が無限であるかに見える。
柳井正会長兼社長の目標は「コカコーラやソニーのような著名企業になることであり、世界での企業合併・買収のために3千億〜4千億用意している」と豪語している。
明らかに柳井ユニクロは、「アクセルを踏み込んだ」のだ。
今は昔の話ながら、消費者のためにメーカー支配の流通構造打破を標榜して、強力なメーカー群と徹底的に戦い、低価格を実現させるべく奮闘したダイエー中内社長のような「大義」こそ感じないが、柳井氏には、中内氏を乗り越えた野望が渦巻いているようだ。
時代を切り開いた中内ダイエーの快進撃、高業績にも素晴らしいものがあったが、どこかで「ブレーキとアクセルとを踏み間違えた」瞬間が生じた。これは、堤西武・西友グループにもあった。
成長にはいずれ停滞から、さらなる「成長への道」と「転落への道」の岐路が厳然としてあることを長い人類の歴史が証明してきている。
GMS両雄の岐路
GMSの両雄が厳しい局面を迎えている。
経営の神様として多くの言行録が著作として出版されるなど、セブン&アイの盟主鈴木俊文氏に死角はないかに見える。が、09年2月期連結決算は、05年に持ち株会社体制以来初の減収を記録した(営業利益は増益)。
主力のコンビニが支えたが、衣料の不振がイトーヨーカ堂やそごう・西武百貨店の業績を直撃した。
鈴木体制におけるセブン&アイの成長戦略は、あくまで全体の営業利益の4分の3を稼ぎ出すコンビニ事業にある。今期は、自動販売機の成人識別カード「タスポ」が導入されたことにより、タバコの販売がカードの不要なコンビニで急増したことが貢献した。
しかし、この「タバコ特需」にいつまでも頼ってばかりはいられまい。いずれ一巡する。急速な景気減退、雇用不安は定額販売を維持するコンビニの売上にも影響を及ぼすはずだ。
総合スーパーイトーヨーカ堂、百貨店グループの営業利益の減少は、まさに際限を知らない状況下にある。「待ち」の姿勢でいる限り、回復はおぼつかない。「お客様の背中を押すような新しい商品を投入する」(村田社長談)と新聞は報じている。
全国主要都市の商店街を震撼させたイオン・モールも、文字通りの岐路を迎えている。総合スーパージャスコを抱えているだけに、利益率の高い衣料品をどのように立て直すか、決して容易ではあるまい。
衣料品の商品展開は、食料品の扱いのようには簡単ではない。いくら低価格でいけ、といってもそう簡単に商品を取り換えるわけにはいかないのは周知の通りだ。
「ブレーキか、アクセルか」、両雄の今後に大きなワナが感じられる。
百貨店に未来はあるか
大手アパレルのオンワードホールディングスの09年2月期決算が、売上高前期比9.1%減の2610億円、純損益は前期の122億円の黒字から、308億円の赤字になったという。オンワードにとっては、初の大幅赤字を記録したことになる。
言うまでもなく、昨秋からの消費の低迷で、主力販売先百貨店の販売が振るわず、営業利益は前期比51.2%減の90億円に止まった。今後は、ショッピングセンターへの出店などをより強化していく方針という。
「アクセルは踏まねばならない」のだ。
それにしても百貨店はどうなってしまったのか。百貨店は大手数社に統合されてしまい、また地方の有力百貨店の多くは不振を極めている。要するに儲かる仕組みが百貨店から失われたのだ。
加えて、主力取引先オンワードのこの不振だ。他の大手アパレルといえども、百貨店を主販路とする限り、オンワードと大同小異のはずだ。もちろん商売は水もの。中にはこの間隙を縫って百貨店販路で高収益を上げている企業もない訳ではない。しかし、これとても長続きのする「儲かる仕組み」ではない。
今の決断が明日を創る
百貨店の経営者が、アクセルを踏むことはあるまい、と思う。が、主力取引先は新しい「アクセルを踏む」はずだ。アパレルメーカーにとって、「待ち」は、自滅を意味する。
ユニクロと並び称される「しまむら」の実質上の創業者藤原秀次郎会長と後藤長八専務が、この時期に退任する。業種・規模こそ違え、ホンダを創業した本田・藤沢コンビの退陣を彷彿させる快挙と言えるだろう。
藤原・後藤のコンビで30年、完全買い取りの経営を文字通り実現してきた。完全買い取りを標榜したGMSも数多くあったし、百貨店のように不可能を承知の上で、完全買い取り条件のPBを平然と続けている企業もある。
「アクセルを踏むか、ブレーキを踏むか」は、経営者の哲学そのものと言える。人生にも、経営にも必ず転機が訪れる。転機に直面した瞬間、その人の行動にその人が持つ哲学(人生観と言ってもいいい)が働くのであろうか。
人間偉くなると(事業に成功すると)、周囲の取り巻きや関係者、さらには政治家やいろんな人々からの誘惑(いい意味でも悪い意味でも)を受けざるを得ない。また、会社内では偉くなるほど実務から遠ざかって、信頼する部下を通してしかモノを言わなくなる。
藤原・後藤コンビには、最後までブレはなかった。小売の原点たる完全買い取りの「アクセルを踏み続けた」勇気を讃えたい。
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東京問屋連盟:問屋連盟通信:2009/4/20掲載 |
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